Semi Sweet・2
□それだけで嬉しい
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それだけで嬉しい
今日は冷たい雨が朝から街を濡らしていた。
こんな日は一日、部屋の中で炬燵でも入りぬくぬくしながら過ごしたいものだけど。
お母さんに「クリーニング取ってきてくれる?」と言われ、しぶしぶ外に出た。
いつもなら、行くわけないのだが、お気に入りのコートをちょうど出していたんだ。
あれ明日から学校に着て行きたいもんな。
寒さに震えながら、お店でコートと父のセーターなどを受け取り、また元来た道を戻る。
でも、このまま帰るのもつまらない。
コンビニでも寄ってこうかな?
近くの店にはいり、雑誌の立ち読みをして新発売の期間限定チョコなんかも物色。
一周した後、レジの前で目にとびこんできたのは肉まん10パーセント引きの文字。
手にしていた財布の中身と相談して、肉まん一個とあったかいミルクティーを買った。
家に帰って炬燵にもぐってから、ゆっくり食べよう。
手の中のぬくもりに幸せを感じながら店を出ると、この寒いのに傘もささずに走ってくる人が見えた。
(寒くないのかな?あれ、あの人)
「あっ!」
私のあげた声は、そんなに大きくなかったと思う。
でも、彼は、仁王君はちゃんと気づいてくれた。
立ち止まり「まずいとこ見られたのう」って、全然困ってない風に笑う。
「どうしたの?」
「傘忘れて」
「・・・・朝から降ってたのに?」
「そう」
へんなの。
不思議がってると、それ何?と私の手の中の袋を指差す。
「肉まん・・・食べる?」
断られると思ったのに、彼は嬉しそうに頷いた。
その拍子に彼の銀色の髪から雫がひとつ落ちてきて、それがとても綺麗に見えた。
***
多分、わりと近所のところから、走ってきたんだと思う。
それほど彼はまだ濡れてなくて、二人で相合傘(この場合仕方ないもんね)しながら、雨避けの出来るガード下まで移動して、肉まんとミルクティーを半分に分けあう。
本当ならもう一個買えばすむんだろうけど、私もそんなにお金持ってないし、仁王君にいたっては財布はおろか持ち物はひとつもないようだ。
「ごっそーさん、うまかったな」
「うん、でも仁王君足りないんじゃない」
「・・・そうやね、でも後は家に着いたら食べるから」
ますます変なの。
思わず寄ってしまった眉間のしわを、仁王君の指が軽くはじく。
「すごい顔になっとるよ」
そして、くくくくっと笑い出す。
クラスメートの仁王君とは、何度か話したことはあるけど、二人っきりになったことはなくてこんな風に近くいられるのが、初めてで、こっちだって、少し遠慮気味で接していたのに。
そういう気遣いは仁王君には関係ないんだ。
こういうとこが女の子に騒がれる点なのかもしれない。
私はふんって思いながら、彼の手からミルクティーの缶を奪う。そして残りを全部飲み干した。
さて、この後どうしよう。
***
傘ないなら、家までくれば貸すよ?
その提案に仁王君は悩んでいるようだった。
「遠慮しなくても私の家、ここからすぐだし」
「・・・・まぁ、それなら好都合かな」
「はぁ?」
何を言ったのかよくわからなかったけど。
行こう行こうと言われて、歩き出した。
多分仁王君はこの後起きる出来事をこのとき予測していたんだと思う。
それで尚且つ私を隣に置いて歩きだしたんだ。
まったく、抜け目ない!
***
「どーいうこと!」
ガード下から出てきた途端の女の子の怒鳴り声。
見た事ある人だなって思った途端、その子は手を振り上げて、私に平手打ちを・・・しようとした。
荷物を両手に抱えてた私は避けようがなくて、棒立ちになっていると、仁王君が咄嗟にその手を掴んで助けてくれた。