Semi Sweet・2

□黙ってないで、何か言って
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あたしの手元を彼が見ている。

そう思うだけで、心臓はどくんどくんしてるし、手のひらは汗ばんでくる。

あたしは来週練習試合をする学校のデータをPCで打ち込みながら、もう帰っていいよと彼に言う。

でも彼は、日吉は、素直にそれを聞くはずもなく。

「鍵当番は俺ですから、先輩が終わるまで待ってます」

と、あたしの申し出を突っぱねた。



黙ってないで、何か言って



もともとの原因は跡部のせいだ。

「アーン?てめぇ、マネージャーになるとき俺様に何て言ったか覚えてるか」

「・・・覚えてます、決してサボったりずるしたりしません」

「だったらこのデータは今日中に仕上げて、皆のトコに送信するんだ」

「でも、今日の放課後は数学の補習が・・・」

「それはてめぇがだらしないからだろ、そんなのが理由になるか、いいか今日中だ」

「そんなぁ」

少しは融通を聞かせろ、俺様め!

あたしはそれ以上は逆らうことは諦め、補習に出た後、すぐに部室に向かいデータ作成を始めた。

が、やはり間に合わず。今は部室に日吉と二人っきりになっていた。

なんで今日に限って日吉が鍵当番なのよ。

すでに着替え終わり、後は部屋を閉めるだけって状態の日吉は鍵を手の中で弄びながら、あたしの事をじっと見つめていた。

「数学の補習」

「・・・それが何?」

「先輩って結構馬鹿なんですか?」

むきーっ!

どうせ馬鹿よ。日吉は数学とか得意そうよね、皮肉たっぷりにそういったら、得意ですよとあっさり。

「か、可愛くない」

「俺は可愛くなくていいです」

そしてふっと笑う。

あっ、やばい今の顔好きかもしれない。

あたしはこのときめきを気づかれないように、PCの画面を睨む。

(やっぱりきついよ、二人っきりなんて)

あたしは日吉が、この一個下の生意気な後輩に昨年からずっと片思いをしている。

テニス部のマネなんて面倒なものやる事にしたのも、放課後だけでも彼の側にいたかったから。

跡部とあたしは昔からの顔馴染みで、最初は跡部の部活をなんとなく見学してただけだったのに。

いつの間にか新入部員の中でもひときわ目立つ、負けず嫌いな日吉にひかれ、跡部に頼み込んで無理やりマネにしてもらったのだ。

でも今その皺寄せが来るとは思わなかった。

「日吉、あんまりじっと見ないで欲しいんだけど」

好きな人と二人だけ、それはもっと楽しいものかと思ったけど、ただただ緊張するだけ。

「でも、俺は他にすることもないですし、それに見ていたいんですよ」

「な、なんでよ」

あたしなんか見ても、おもしろくないよ。

そう心で呟くと「楽しいですよ」と、返事があった。あたし、今口に出さなかったのに、考えてる事が漏れてるのかな?

まさかね。

はははは、乾いた笑いをこぼすと、急に部室のドアが開いた。


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