Semi Sweet・2
□黙ってないで、何か言って
1ページ/2ページ
あたしの手元を彼が見ている。
そう思うだけで、心臓はどくんどくんしてるし、手のひらは汗ばんでくる。
あたしは来週練習試合をする学校のデータをPCで打ち込みながら、もう帰っていいよと彼に言う。
でも彼は、日吉は、素直にそれを聞くはずもなく。
「鍵当番は俺ですから、先輩が終わるまで待ってます」
と、あたしの申し出を突っぱねた。
黙ってないで、何か言って
もともとの原因は跡部のせいだ。
「アーン?てめぇ、マネージャーになるとき俺様に何て言ったか覚えてるか」
「・・・覚えてます、決してサボったりずるしたりしません」
「だったらこのデータは今日中に仕上げて、皆のトコに送信するんだ」
「でも、今日の放課後は数学の補習が・・・」
「それはてめぇがだらしないからだろ、そんなのが理由になるか、いいか今日中だ」
「そんなぁ」
少しは融通を聞かせろ、俺様め!
あたしはそれ以上は逆らうことは諦め、補習に出た後、すぐに部室に向かいデータ作成を始めた。
が、やはり間に合わず。今は部室に日吉と二人っきりになっていた。
なんで今日に限って日吉が鍵当番なのよ。
すでに着替え終わり、後は部屋を閉めるだけって状態の日吉は鍵を手の中で弄びながら、あたしの事をじっと見つめていた。
「数学の補習」
「・・・それが何?」
「先輩って結構馬鹿なんですか?」
むきーっ!
どうせ馬鹿よ。日吉は数学とか得意そうよね、皮肉たっぷりにそういったら、得意ですよとあっさり。
「か、可愛くない」
「俺は可愛くなくていいです」
そしてふっと笑う。
あっ、やばい今の顔好きかもしれない。
あたしはこのときめきを気づかれないように、PCの画面を睨む。
(やっぱりきついよ、二人っきりなんて)
あたしは日吉が、この一個下の生意気な後輩に昨年からずっと片思いをしている。
テニス部のマネなんて面倒なものやる事にしたのも、放課後だけでも彼の側にいたかったから。
跡部とあたしは昔からの顔馴染みで、最初は跡部の部活をなんとなく見学してただけだったのに。
いつの間にか新入部員の中でもひときわ目立つ、負けず嫌いな日吉にひかれ、跡部に頼み込んで無理やりマネにしてもらったのだ。
でも今その皺寄せが来るとは思わなかった。
「日吉、あんまりじっと見ないで欲しいんだけど」
好きな人と二人だけ、それはもっと楽しいものかと思ったけど、ただただ緊張するだけ。
「でも、俺は他にすることもないですし、それに見ていたいんですよ」
「な、なんでよ」
あたしなんか見ても、おもしろくないよ。
そう心で呟くと「楽しいですよ」と、返事があった。あたし、今口に出さなかったのに、考えてる事が漏れてるのかな?
まさかね。
はははは、乾いた笑いをこぼすと、急に部室のドアが開いた。