Semi Sweet・3

□04 バイト中に
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04 バイト中に
 

知り合いが経営してる小さな学習塾。

夏期講習の間だけ、事務のバイトしてくれないかな?

いつものコが里帰りしてどうしても人手が足りないんだよ。

そんな誘いをうけたのは夏休みに入る寸前。でも私はあっさり頷いた。

夏が苦手の私は、どこも出かける予定はなかったし、むしろこの猛暑をどう乗り切るかで悩んでいたのだ。

暑い家の中でこもっているよりは、クーラーの効いた教室の方が幾分もましだ。

それに事務というよりもほとんど雑用みたいな仕事が多くて、今も生徒が来る前の教室の机を雑巾がけなんてしたりしてる。

(そろそろかな)

黒板の上にかけられた、文字盤の大きい時計を見ながら、私はそわそわしだす。

まだ授業がはじまるまで、かなり余裕の時間だけど。

彼はいつも一番のりでやってくる。

ガラリ。

(あっ、きたかな)

振り向くと、私と同じくあまり夏が好きではないと言った彼が、猫背気味に教室に入ってきた。

「涼しいのー」と独り言を呟き、鞄を机の上にほおる。

そして、私と目が合うと、こっちに来いと手招きをする。

私は雑巾その場に捨て、誘われるがままに彼の席に行く。

「なに?」

彼はコンビ二の袋を私に見せ中からペットボトルのお茶とカップのアイスを取り出した。

「俺のおごり」

「ありがとう」

彼はすぐにお茶を飲み始めた。

私はアイスを手に取る。

食べた事ない種類だ。

「新発売のやつかな?」

「ああ、昨日部活ん時ブン太が食ってて、なんやら絶賛してた、あんたこういうの好きじゃろ?」

「大好き」

そう言うと、彼、仁王君は目を細めて笑った。

仁王君は普段はこの塾には通ってなくて、夏期講習のみ受けに来ている生徒だ。

中学三年生。

私からみたらかなり年下なんだけど、見た目も仕草もなにもかもが普通の中学生よりは大人びていて、しかもカッコいい。

バイト初日にやはり教室掃除をしてた私に「席勝手に座ってよか?」って声をかけられたのが最初の出会い。



「えーと、いいんじゃないかな?」

「なんで疑問系なん?」

「実は私も今日がバイト初日で、あんまりよくわからなくて、もしかして席決まってるかもしれないもんね、今誰かに聞いてくる」

「ああそれならええよ、もう少ししたら誰か来るかもしらんし、掃除続けて」

「うん」



たったそれだけの短い会話だった。

しかし、彼は毎回来る時間が他の生徒より早く、その皆が来るちょっとした時間になんとなく私達はお喋りするようになった。

それは本当にたわいない内容。

彼の部活の(テニスをやってるらしい)仲間の事、私が通っている専門学校の事、苦手な夏の話、最近みた映画の感想・・・。

毎日繰り返されるバイトの中で、私はこの時間が一番楽しみになっていた。

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