Semi Sweet・3

□たったひとつのこと
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「行きませんよ」

むっつりした表情で観月君は答える。放課後、部活前の空き時間。

クラス行事の映画観賞会のプリントには目もくれず、カバンの中に教科書を詰め込んでいる。

あっ、辞書もちゃんと持ち帰るんだ、私なんておきっぱなのにな。



たったひとつのこと



「まだ何か?」

「う、うん」

神経質そうに見上げる瞳に弱気になりそうだけど、もうひと押ししてみる。

「観月君この日部活休みだよね」

「それがどうかしましたか」

うっ、その視線が怖いです。

「転校してきてからまださ、こういうクラス行事参加したことないじゃない?」

「いい機会だから、参加してみろと?」

馬鹿らしいですね、そんな意味合いがこめられてる口調。

胸につきささる、でも簡単に否定しないで欲しい。

「楽しいと思うよ」

「それはあなたの意見ですよね、僕にとっては時間の無駄です」

「なんで?いい映画だよ」

なんとか賞もとったみたいだし。

私のあまりあてにならない情報に観月君の心が揺れる事もなく、そういう事ではありませんと反論された。

「集団でお祭り騒ぎのように映画に行くという行為がくだらないんです」

「・・・」

確かにクラスの皆で行けば、騒がしいかも。それでも、私は彼をしつこく誘う。

いつも一人で教室にぽつんとしてる観月君。

部活仲間とはうまくいってるみたいだけど、クラス内では特異な存在。

それについて本人は気にしていない。

わかってる、わかっているのに、そんな姿を見るのはなぜか嫌でたまらない。

うまく次の言葉が出なくて困っていると、小さく観月君が笑った。

「随分とおせっかいな人ですね」

「迷惑、だよね」

「そうですね・・・」

クセのある髪をいじりながら、返答を迷っている。

彼がきっぱり断る前になんとかしないといけない。

頭、あんまりよくないから、とにかく全身全霊こめてこの想いを吐き出した。

「自己満足だって、わかってるの、それでもいいから、騙されたと思って、参加しない?ねっ?」


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