禁猟区域 番外編
□Indelible name
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気が付いた時には、この部屋にいた。僕が眠っていた白い簡易ベッドには、白い兎の縫い包みが座っている。
「…シロ…ウサギ…?」
そっと触れた指先に、ぬるりとした液体。手を引き、指先を見れば染み付いたような真紅。
『キミガ、コロシタンダヨ』
「……っ?!」
縫い包みの中から聞こえた、狂ったような声に驚く。
『キミガ、コワシタンダヨ、アリス』
嗚呼そうか。僕はアリスだ。だから、此処にいるんだ。
『アリス、キミノツミハ、キエナイヨ』
誰かを殺しても、何かを壊しても、決して裁かれない。だから、此処にいる。
『キミハ、アリスを、殺ス為ダケニ存在シていル』
◆◇◆
あれからどれだけの年月が流れたのだろうか。この部屋から見える空には変化はなく、ただ退屈なだけだった。
「いつまでここに幽閉されていればいいんだい?」
「それは愚問だよね」
「そう…死ぬまでってことか」
「いや、例え君が死んで腐ったとしても、此処からは出してあげられない」
「あららー。それは酷いね」
「仕方のないことだからね」
肌蹴けた胸元、消えない名前。存在してはならない、もうひとつの真実。
「僕はアリスに殺してもらいたいよ。こんなトコロで死ぬのを待つなんて、もううんざりだ」
「君も"アリス"なんだよ? 自分で命を絶てば、結果それが"アリスに殺された"ことになる」
「僕が自分を殺せないことを知ってて、それを言う?」
「飽くまで、ひとつの意見だよ」
「酷いね、まったく…」
「仕方ないよ。それが君に架せられたルールなんだから」
少年は自らの胸元に刻まれた名前に指先を這わせ、ただ睫毛を伏せる他なかった。
「狂ったシナリオは二度と元には戻らない。白か黒か、はっきりさせないとね」
紅い瞳を細め少年を見つめた黒猫は、愉しそうに微笑んでいる。