禁猟区域 番外編
□何よりも脆く
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「ジャック!! ジャック!!」
ヒステリックに私を呼ぶ甲高い声、正直耳障りだ。そんなに叫ばなくとも聞こえていますよ、女王様。
「どうかなさいましたか?」
「アリスを何処に隠したの?! アリスを早く返して!!」
無茶を言わないで欲しい。貴女が愛したアリスは既にこの世に、この世界にはいないと言うのに。自らの手でアリスの細首を苅り、誰も届かない場所へ隠してしまったのは女王である、貴女でしょう。
「アリスはお部屋でお休みになられております。女王、貴女もお休みになられたほうがよろしいのでは?」
何千、何万と繰り返してきたやり取りにも飽きが見え始めている。いい加減にしてもらいたい。女王の純粋は狂気に満ちて、いつか私にその刃を向けてくるのですね。貴女からアリスを奪ったとして、その姿に似合わない大きな鎌を私の首に添えて。
「イヤよ! アリスはあたしから離れてはイケナイの! どうして解らないの?!」
解りたくもない。アリスの仕事はシロウサギを追うことであり、女王の玩具になることではないのだから。
私に縋り付くその姿はあまりにも無様で、女王である威厳も誇りも、品性さえも感じられなかった。
「アリスを返して…。あたしの…あたしだけのアリス………」
全く持って呆れてしまう。それでも見捨てることすら出来ないのは、女王が持つカードの所為。何処にあるのかも解らない、トランプ兵達の魂そのものを象った紙切れ。
「眠りなさい。すべてを忘れ、一時の楽園へ身を置いてしまえばいい――…」
女王の瞳から明かりを遮り、耳元でそう囁いた。ずるり、と女王の身体から力が抜けていく。意識を失くした女王の身体を支え、涙の痕の残る頬を撫でた。
「………困った女王様だ」
シロウサギを殺してまでアリスを傍に置きたがった、寂しい女王様。次のアリスが現れるまで、安らかな眠りの中へ。
「お休みなさいませ、女王様」