ごちゃまぜ

□恋嘘
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学園の王子様、桜井琉夏。
その兄で意外に面倒見が良い、桜井琥一。
クラスメイトで柔道一筋、不二山嵐。
一つ年下の外見チャラ男でありながらのヘタレくん、新名旬平。
天才ピアニストで一つ年上の、設楽聖司。
生徒会会長で一つ年上の、紺野玉緒。

あたしの周りには一風変わった人がやたらいる。

極めつけは女友達。

星占い好きでやたら当たる、宇賀神みよ。
ファッションならお手の物で花椿の血縁者、花椿カレン。

この二人だけは、あたしのことを”バンビ”と呼ぶ。

嫌ではないし、もう慣れた。

慣れないことと言えば、みよとカレンから聞かれる”恋バナ”

家に泊まれば『気になる男子いる?』

そんなの言える訳ない。

でも、あたしのことよりも。

あたしは二人の好きな人の方が気になるよ?

みよは誰が好き?

カレンは誰が好き?

あたしと一緒じゃない?

ねぇ。

あたしじゃ、頼りない?

二人が好きだから、協力したいんだけどな。

『カレン、みよ。二人は好きな人いるの?』

あたしは、ついに思い切って訊ねてみた。

きょとんとなる大きな瞳は、二人分となると迫力があった。

『なに?なに?聞きたい感じ?もうバンビったら!』

『だって、いつもあたしの話ばっかりだし…ね?』

『バンビの話になるのは、それだけ星が輝いてるから…』

『でも、あたしは聞きたい!…ね?いるの?』

あたしは念を押した。

いかに、はぐらかすかって二人は考えてるもの。

今日は絶対に聞き出すんだから。

『そんなのいない…』

『あたしらにはバンビだけ!バンビさえいたらいいの〜』

『嘘。絶対いるでしょ?何となくわかるもん!誰?教えて?』

二人は顔を見合わせる。

もしかして、あたしだけ知らないの?

時々、空を眺めてため息吐いてるのは好きな人がいるからじゃないの?

あたしは、みよとカレンから退かなかった。

『今日のバンビには勝てない。そういう星周り…』

『マジ??……あちゃ〜…そっか、はぁ〜…』

『言ってくれるまで帰さない!あたしだって二人に協力したいもん。二人が言ったら、あたしも白状するから!ね?』

交換条件を持ち出すと、瞳の色を変えたのはカレンが早かった。

『よし!そうこなくっちゃ!…じゃぁ……みよ、どうぞ』

『カレン…』

言い方は優しいけれど、キッと睨みつけるみよの瞳は凄まじく怖かった。

『じゃぁ、せーので言おうよ』

カレンの案が、あたし達を頷かせた。

『絶対、言ってよ!誰かが言わなかったらその人と絶好する!』

あたしのその一言は二人には堪えたみたい。

その瞬間、あたしは”せーの”と声をかけた。

『コウくん』『コーイチ君』『桜井兄…』

時間が止まった気がした。

みんなが白状した、好きな人の名前が同じ。

こんなことってある?

この学園にイケメンと言われてる人はいっぱいいるのに。

大事な友達と好きな人が一緒だなんて…。

『あちゃ〜…一緒かぁ…』

『すべては星の導き…』

『でも、こんなことって……』

カレンは、コウくんのことタイガーとか言って、からかってたじゃない?

みよだって、怖がってたくらいだし。

なんでなの?

『バンビ、あたし達に遠慮とかなしだよ?』

『え?』

『バンビの顔がそう言ってる…』

『あたしら二人は容赦なくいくよ。だからバンビも遠慮しないでコーイチ君のこと頑張って欲しい』

『でも…』

『選ぶのは桜井兄…。頑張ったもの勝ち…』

『そうそう。だから、バンビ。待ってるだけだと、あたしらのどっちかに取られるよ?良いの?』

『ダメッ!!……あ…』

つい、叫んでしまった言葉に、カレンとみよはニヤリと笑った。

あたしは両手で口を覆ったけど間に合わなかった。

『そうこなくっちゃ!負けないわよ?』

コクンと頷くみよ。

あたしは手をギュッと握りしめる。

『うん。あたしも負けない。二人が大好きだから正々堂々とがんばる!』

『好きな人が同じでもキューティー3だよ!』

『キュー………』

あたし達、3人は手を堅く握った。

『じゃぁ、また明日ね?』

『チャオ!』

『バイバイ…』

あたしは、二人に背を向けて帰路に就いた。

そんなあたしの背後で二人が会話していたことを知らないまま歩いていく。

『これで、バンビがコーイチ君のこと、もうちょい積極的にいけると良いけど……』

『明日からのバンビの運気は絶好調』

『あたしらの嘘も良い方向に行くかしらね?』

『バンビに桜井兄が好きだと誤解されたのが嫌…』

『仕方なかったの!バンビには幸せになってもらいたいし?みよもでしょ?』

そのカレンの言葉に小さく頭を下げるみよ。

『さてと、明日から楽しみだなぁ〜!』

二人はウキウキであたしとは正反対の道から帰って行った。

まさか、嘘をつかれてたなんて思いも寄らないあたしは、二人に悪いと思いつつもコウくんの傍を離れないのでした。




おしまい


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