Novel★short
□コトバにしてみれば
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「ユキ、ユキ!」
「えっ、あ… ごめん、ボーってしてた」
あのあと毎度のことながら車までの道をあけてくれてなんとか助手席に乗り込み、黄昏館へと向かっていた。
車が動き出してただなんとなく窓の方を向いて考え事をしていたら、ルカの呼びかけにすぐに気づくことが出来なかった。
謝れば、ルカは困ったような顔をした気がする。
「何かあったのか」
「えっ、どうして…?」
「このところ様子がおかしい…さっきも何か考え事してたんじゃないのか」
ちょうど信号で車を止めたルカが顔を夕月へと向け真剣な面持ちで問いてくれば、全てを見透かされそうで夕月はさっと目をそらした。
「ううん。あっ、疲れたなぁって思ってただけだから…、別に何も……」
「ウソだな」
一瞬の目の動きをルカは見逃さなかったのか、信号が青へ切り変わった途端いつもの黄昏館までのルートとは違い、別の道へと車を走らせた。
「?! ちょっとっ、ルカどこ行くの」
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それからルカは人気が少ない路地裏へと車を止めた。
「なんでこんなとこ―――っ、」
夕月は意味が分からずにキョロキョロとしているとルカはぐいっとその腕を掴み引き寄せたかと思うと唐突に抱きしめた。
「…ルカ?」
「おれが傍にいたら不満か」
背中に腕をまわさたまま耳元で囁かれ、思わず体を起こしルカを見つめればまた続けて言葉を発する。
「この頃迎えに行く度に悲しそうな顔をしている…何かあるなら言ってほしい」
「そんな、不満とかじゃなくって……ルカと一緒にいる時は嬉しいよ。ただ…」
そこで言葉を切ってしまったのは、その先を言ってしまうことでただのわがままになってしまいそうだから。
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