過去拍手文
□カナシミレンサ U
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『カナシミレンサ U 』
‐夕月Side‐
今日は珍しく体調がよかった。
でも外に出られる状態ではないのは変わらないし、ここに来てからまだ一度も病院の外には出られたこともなかった。
そっとベッドから降り、病室の窓から外を見渡せば清々しい朝の光景が目の前に広がる。
その中でもやはり目につくのは、自分と同じ歳くらいの高校生達。
幼い頃から病を患っていたため、学校には数えるくらいにしか行ったことがなく、高校にも通うことはできないでいる。
だから友達もできたことがなかったけど、病気が治ったら高校に毎日通って、友達もつくって、たくさん話して、笑って…
そんな日が来ることを不可能に近いとわかっていても願っていた。
大きく深呼吸して、いつ見納めになるかわからないこの風景を目にしっかりと焼き付けまたベッドへと戻る。
そうして今日もいつもと同じ一日が始まって終わるのだと思い目を伏せた。
□
窓を見ると先ほど朝日を見たばかりだったのが、もう日は沈み暗闇が広がっていた。
もうすぐ消灯時間だが、今日は体調もいいことだし、ベッドサイドのライトをつけ、もう何度も繰り返し読んだ小さな文庫本を手に取った。
(少しだけ夜更かししてもいいよね…)
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