Novel★short

□風紀委員の特権
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えっと、夕月はどこに行ったんだろう。
教室を覗くが夕月の姿はなかった。

今は次の授業が始まるまでの短い休み時間。

今日は夕月と一緒に帰る約束をしていたのだが、あいにく風紀委員の仕事ができてしまって一緒に帰ることが出来なくなってしまった。
少し残念な気もするが、風紀委員長という役職のため仕方がない。
そのことを伝えるために夕月を捜しているのだが見つからない。

もうすぐで授業も始まることだし、昼休みにでもまた来るか。
そう思い踵を返すと、向こうの廊下に夕月らしい後ろ姿を見つけた。
声をかけようと近寄ると、夕月は(赤のネクタイからして)同じ2年の男子と一緒にいた。



***

「ねぇねぇ祗王くん、これちょっと食べてみてくんない?」

そう言って渡されたのは一口サイズのチョコレート。

さっき廊下を歩いているといきなり2年生のこの彼から呼び止められ、今お菓子をすすめられている。

「えっと、じゃあ…いただきます」

少し躊躇ったが、くれると言うのなら特に断る理由もないため仕方なくチョコレートを口に入れる。ふんわりと甘さが口の中に広がる。

「どう?」

「あ、おいしいです」

「そっか、じゃあ‥あっち行こうか」

そう言ってお礼を言った夕月の肩に腕をまわそうとすると、何かに遮られた。

「なにしてるんだ?」

「愁生くん!」

顔は笑っているが、その彼の腕を掴んでいる手に力を込める。

「痛っ、げっ、碓氷!」

「君が夕月と仲が良かったなんて知らなかったな」

「えっ、僕‥初対面ですよ」

「お、俺はただお菓子あげただけだぜっ」

「ふーん、そんないい奴だったとは初めて知ったよ」

どうせ俺の夕月を狙ってたとしか思えないけどな。

「じゃあ、このお菓子は没収させてもらう」

そう言って男の手からお菓子の箱を取り上げる。

「なんで没収なんだよっ、お前にそんな権利があんのかよ」

「あるよ、俺は風紀委員だからね。じゃ、そういうことで」

その場に男を残し、俺は夕月の手を引いて歩きだす。

「夕月、大丈夫だった?」

そう問い掛けるが反応がない。

どうしたのかと立ち止まって顔を覗き込むと、いつもとは違う表情の夕月がいた。
顔は赤く、目は潤み、吐く息は荒く熱を持っているようだった。

「夕月っ、どうかした?」

「すいません、なんか…さっきから体が熱くてっ」

はぁはぁと息を荒く吐き、俺にもたれ掛かるようにする夕月の額に手をあててみるが、とくに熱があるようには思えない。

しばらく考えているとふと、手に持っていたお菓子の箱に目をやる。
さっきの男子生徒から没収したものだ。
もしかすると……

「夕月、さっきの生徒から何かもらった?」

「…はい、お菓子を食べるようにすすめられたのでいただきました」

やっぱり、このチョコレートに媚薬か何かが入っていたに違いない。
夕月を連れていこうとしたのを俺が止めてよかった。
そうじゃなかったら今頃夕月は……。

「じゃあ、夕月。今日は保健室が開いてないみたいだから、とりあえず風紀委員の教室で休んだ方がいい。行こうか」

「‥はぁ‥はぁ、はい、そうします」

そのまま夕月の体を支えながら教室へと向かう。

こういう時に風紀委員長というものは鍵を預けられているから便利だ。

夕月を中に入れ、教室の鍵を誰も入って来ないように内側から閉める。


さてと、今から夕月を楽にしてあげようかな…

いつもとは違う不適な笑みを浮かべ夕月の元へと近づいていく。




End



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐続→short『罪と蜜』


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