Novel★short

□哀しみよ この契りと共に
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「さよならだ 夕月」




目の前の彼は何を言っているのだろう。

「どう、して…ですか?」

その問いは虚しくも空気中に消え、氷のような冷たい瞳は何も語らず、彼は背を向け闇の中へと足を進める。

「待って下さいっ! どうしてそんなこと言うんですかっ、僕はずっとあなたといたいのに、なん…で、奏多さんっ!」






哀しみよ この契りと共に






「っ、う… ゆ、め?」

早朝のまだ覚醒しきれていない頭で、ふと濡れている頬に手をやりゆっくりと上体を起こす。

「奏多さん……。 ………学校、行かなきゃ」

涙で濡れた顔を袖で拭き取り、早々と支度をすませると夕月は施設を後にした。



最近、同じような夢ばかり見ている気がする。

今日見たような奏多さんがどこかへ行ってしまう夢…… と、もう一つは目が覚めた時には覚えていないけれど、どこか懐かしいような…そんな夢。

こんな夢を見た後には必ずと言っていいほど、今は一人暮らしをしている彼に会いたくなる。
昔からずっと慣れ親しんでいる兄のような存在の彼に。

いや、偏に彼の存在を確認したいだけなのかもしれない。

「奏多さん…」

学校帰りのその足は施設に戻ることはなく、奏多のいるマンションへと向かっていた。





****

「我 ラジエルの鍵の所有者 古の契約により 永遠の門を開けよ…………か」

ラジエルの鍵。

ついこの間まで読むことが出来なかったこの本がごく最近になりだして読めるようになってきた。

「どうしてなのかな…」

誰もいないこの部屋で奏多は本の表紙をなぞりながらポツリと呟く。
暫くの間そうしていると、誰かの訪問を告げるインターホンが部屋に鳴り響いた。

誰かと思ながらソファーから腰を浮かせ玄関まで行きドアを開けると、そこには見知った少年がいた。

「夕月、どうしたんだい?」

「ぁ…奏多さん こんにちは。その、たいした用はないんですけど、ちょっと会いたくて…」

どこか淋しげな表情を浮かべる夕月はいつもの様ではなかった。

「そっか… さっ、入って入って」

お邪魔します と言って部屋に入る夕月をソファーに促した後、奏多は温かい飲み物を作りにキッチンへと向かう。

キッチン越しから見た夕月は、やはり切なそうにどこかを見ては暗い表情を隠せていない様子だった。
マグカップを二つ手に持ち、夕月の隣に座ると一つを手渡した。

「今日は元気ないみたいだけど、何かあったのかい?…それともまたいつもの?」

「ありがとうございます。はい…また嫌な夢を見て、」

夕月は悪い夢を見た後には決まってここに来ていた。
その夢の内容を追求しようとはしないが、夕月の心が落ち着くまで共に時間を過ごすといったことが最近よくある。

「奏多さんが、いなくなる…夢…」

「えっ…」









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