Novel★short

□届かない月
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コンコン



夕月は斎悧の部屋の前にいた。


それは今日、もう日も沈みかかっていた時、リアと斎悧は悪魔との戦闘から黄昏館に帰ってきた。

敵は中級悪魔だったらしいが、特に問題もなく二人とも無事にことを終えたようで夕月はホッと胸を撫で下ろした。

念のために夕食で集まるとき、怪我はないかリアに聞いてみると、笑顔で平気だと答えてくれた。
斎悧にも同じことを確認しようと思ったが、夕食が終わっても一度も姿を見せることがなかったため心配になり、今こうやって斎悧の部屋の前にいるわけだ。



「どうぞ」

再度ノックをしようとすると中から斎悧の声が聞こえ、夕月はドアノブへと手を掛けた。

「失礼します」

「誰かと思えば…夕月か」

部屋の電気は消され、月明かりだけが差し込む大きな窓にもたれ掛かるようにしていた斎悧はゆっくりと顔を上げこちらに向かって来た。

「何か用か」

「はい。あの、リアちゃんにも聞いたんですけど、斎悧さんはどこか怪我とかしていませんか」

念のためにと思って、と言うと斎悧はジッと夕月の目をしばらく見つめて低く声を発した。

「傷を負ってたら、癒してくれるのか?」

「…? はい、それが僕の役目ですから」

「役目ね……ならココ、治してくれる」

ココと言って袖を捲った斎悧の腕にはうっすらと浅い傷があり、夕月は返事をするとソッとその部分に手を翳す。

だが、その手は光を出す前に掴まれ、拒まれた。

「前に俺が言ったこと忘れたのか?」

「えっ…――っ?!」

両腕を掴まれたまま夕月は近くにあったベッドへと背中から押し倒された。

「口移しが一番ムダがないってこと」

「そ、れは…っ」

覆いかぶさるように上から見下ろされれば、その眸からは逃れることができない。

「なぁ、癒してくれるんだろ?それともこの唇はアイツだけしか受け入れないのか?」

ツーと夕月の桜色の唇を指でなぞる。

「そんなことっ」

ルカとの関係を見透かすような斎悧の言動に夕月は頑なに否定できなく、ただ顔を染める。

「ならできるよな、早く癒してくれよ…… 我らが姫」

「………っ」


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