Novel★short

□愛's
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『愛's』







「一時的だが、悪魔の強い障気にあてられて目が見えなくなってしまったんだろう。大丈夫、時間が経てばまたすぐに見えるようにはなる」

「はい……」

「そう落ち込むな夕月。そりゃあ不安だろうがそれも数日の間だけだ。なっ?」

診察台に座り浮かない表情の夕月を宥めるように彌涼はワシャワシャと頭を撫でた。


下校中に運悪くも上級悪魔と遭遇し、障気に人一倍敏感な夕月はその場で気を失った。

すぐに近くにいた十瑚や九十九のおかげですぐさま回避することが出来たが、黄昏館について目を覚ました夕月の目は見えなくなっていた。


「まぁ、見えない間はあそこでおれに殺気を放っていらっしゃるこわーいお兄さんがそばにいるから安心だろ」

「そう…ですね、ルカが一緒なら」

ルカがいるであろう方向に振り返り夕月ははにかんだ。


「ユキ、行くぞ」

ツカツカと二人の元に近づき、ずっと夕月の頭や頬を撫で回している彌涼の手を払うとルカは夕月の膝裏に腕を差し入れ横抱きをした。

「わっ、ルカ自分で歩けるよっ」

「こっちが早い」

「そうだけど…」

恥ずかしいよ…、と小さな声で言っているのにルカはあえて聞こえないふりをする。

「じゃあ夕月、お大事に」

「はい。ありがとうございました」

軽く会釈する夕月を抱き抱えたままルカは部屋を出ていこうとすると「あっ」と彌涼が声を上げた。

「それと、ルカ。あんまり夕月に無理させるんじゃないぞぉ」

ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべる彌涼にルカは鼻であしらい部屋をあとにした。

「いやぁー、若いねぇ」

閉まる扉を見ながら彌涼は栄養ドリンクを一気に飲み干し、またもや口元に笑みを浮かべた。








「夕月ちゃんっ」

「夕月っ」

医務室から出た後、自室に戻る途中前方から誰かがこちらに向かって走ってきた。

「十瑚ちゃんと九十九くん…ですか?」

目が見えなくとも夕月は声だけでその二人だとわかった。

「ごめんね、私達のせいで…夕月ちゃんの目が……」

「ごめん、夕月…」

夕月を守ることが戒めの手の使命のようなものだが、守れなかった十瑚たち自身は悔しさが込み上げていた。

「そんな…気にしないでください。十瑚ちゃんや九十九くんのせいじゃないですよ。それに、暫くすれば目も見えるようになると彌涼先生から言われたので」

だから大丈夫、と笑うと二人は思わず夕月の手をギュッと握った。

「ありがとう夕月ちゃん。私達もっと強くなるから」

「夕月を守れるように強くね」

真剣な二人の眼差しを強く肌で感じとって、夕月はそれにこたえるように二人の手を更に握り返した。

「ありがとう。十瑚ちゃん、九十九くん」



「そろそろユキを部屋で休ませる」

今まで3人の様子を黙って見ていたルカがおもむろに口を開く。

「うん、そうね。夕月ちゃんゆっくり休まなきゃだめよ」

「お大事にね、夕月。困ったことがあったらおれ達を頼ってね」


自室へと向かっていくルカと夕月の後ろ姿を見送りながら十瑚はずっと疑問に思っていたことを口にした。

「どうしてお姫様抱っこなのかしらね」

不思議そうに見つめる十瑚の傍らで九十九はクスリと笑った。

「さあね」





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