TRIGUN

□cigarette
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 もともと煙草はそんなに好きじゃない。
 だから種類なんて殆ど知らなかったし、どれも同じ匂いだと思っていた。


 でもあいつに会って、一緒に旅をするようになってから煙草を吸うことを知って、切れると街中の店を駆けずり回って
 絶対に同じものを買って来るのを見ていたら、今まで見向きもしていなかったソレに少しだけ興味が湧いた。





●○●○●






「なあ、何でいつもその銘柄なんだ?」

 椅子に逆向きに座り背凭れに顎を乗せて体重を預ける。
 ちょっとしたアクシデントに見舞われ徒歩で砂漠越えをした直後だ、立ったまま話をするのは流石に辛い。

「あっ?」
 砂漠の強行突破でヘロヘロになったスーツから取り出されたこれまた潰れて殆ど原型を留めていない紙の小箱。
 勿論中身だって無事でいられる訳もなく数ヵ所が折れて曲がっている。

 咥えて火を付け、開け放った窓の外に最初の一吐き…


 馴れた様子で一連の動作を終えると、こちらを向いて窓枠に腰掛ける。
「急にどないした?オドレがコレに興味示すなん珍しいやないか」
「いや、君がたまに夜中まで街中走り回って探してるときもあるからさ
 銘柄なんて全然解んないけど、他に幾らでも種類があるのに何でそれに拘るのかなって。扱ってる店、殆どないんだろ?」


 先端から立ち上る細い煙を目で追い、消えたところで視線を戻す。
 天井付近で霧散して見えなくなるが、恐らくあの辺りは煙を構成していた粒子が溜まっているのだろう。

「言ったってもエエけど、大しておもろい話やないで?」
「別に良いさ、僕が気にしてるだけだし」




 目の前の男は何かを思い出すように視線を泳がせると、最初の長さの半分程になっていたソレを人差し指と中指で挟みその手を窓枠に置いた。

「まあ、何やかんや言うてもまず金やな。こないに毎日消費するもんにあんま金はかけられへん
 せやかて、不味かったら日々の楽しみの意味のうなってまうやろ。始めた頃は安うてそれなりに旨いんを探して色々試しとったわ」
「んー…でも安いってことはそれだけ色んなものが混じってるってことじゃないのか?」

 煙草の値段は中に包まれている葉の良さと純度に比例している。
 安い物はそれだけ余計な不純物が入り込んでいると言うことで、物によっては体に必要以上に害を及ぼすことも少なくない。
 それに余計なものが入っているから味だって良いとは言えない筈だ。


「おう、不味いんばっかで安いやつ探すの諦めてまおかと思たわ。そないな事考えとった時に丁度寄った街のちっさい店でコレ見付けてな
 埃被っとったし一箱しか残ってへんかったさかい、店の親父がタダで譲ってくれたんで吸ってみたら大当たりや」
 その時値段を聞いたところ、丁度予算内に収まる価格だったためそのまま定着してしまったらしい。

 彼らしいと言えば彼らしい理由に口許が緩む。



「…?何笑っとるん?」
「いや、君らしいなって思ってさ」
「何やそれ」








 そんな話をしてからますます興味が沸いて、自分で吸わないくせに銘柄も匂いも全て覚えてしまった。
 あいつが死んだ後も、服から箱ごと抜き取ったソレを御守りみたいにコートの内ポケットに仕舞い込んでオクトヴァーンでの決戦に臨んだ。




 我ながら酷く女々しいと、自分はこんなにも弱い生き物だったのかと思い知らされた。




●○●○●



 あの事件から半年。


 隠れて静かに暮らそうと思っていた矢先、半年ぶりに地球軍や賞金稼ぎ、突撃取材班に転職した元保険屋さん達に会って
 再開の挨拶もそこそこに以前と同じように追い掛けられる羽目になった。



 岩の狭い隙間に潜り込んで一団をやり過ごす。

 砂煙が見えなくなったことを確認し、傷が完治してまた旅が出来るようになったら真っ先に行こうと決めていた場所へ向かった。




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