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□ノーラの日記より抜粋
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○月×日
皆さんこんにちは。私ことノーラは、この度めでたく結婚致しました。
お相手はハンターのキオさん、とてもお優しく強い方です。
△月□日
子供も授かり充実した毎日を送っておりますが、心配な点が一つだけございます。
そう、飢えが満たされないのです。
このまま普通の主婦として過ごさなければならないのか…と思っておりましたらなんと、夫が師匠のクルトアイズさんとできていると言うではありませんか!
それに気付いたのは今日の夕方、久々に村を訪れたクルトアイズさんが、夫と二人で狩に行って帰ってきたときのことでした。
狩りから帰ってきたときのお二人の顔色の違いに私、頭の中でピンときましたの。
夕食時に夫が席を外した折、クルトアイズさんにお伺いするとあっさりとお認めになりました。
何事も知識と勘と経験ですのね。
子供を寝かせてからこっそり夫の部屋へいったところ、普段の夫からは想像できないほど高い声を上げておりました。
声を押さえてはいたようですが、家の扉が薄いお陰で細部までしっかりと聞き取ることができましたわ。
とても良い耳と頭の保養になりました。
△月☆日
今日夫は腰を痛めて狩りに出ることができませんでした。
昨日のことが原因なのは一目瞭然ですね。
腰を痛めるなど珍しいと、ミモリさん、ロッシィさん、エーデリカさんがお見舞いに駆け付けてくれました。
後で知ったのですが、エーデリカさんは私と同じ種類のお人だそうです。
夫が腰を痛めた理由はぎっくり腰ということになっておりましたが
「全く、仕方のないバカ弟子だ」と言ったクルトアイズさんに夫が向けた羞恥のこもった眼差しが、全てを物語っておりました。
私は今、この生活を存分に満喫いたしております。
▲▽▲▽▲
「…………」
そこまで読み終えたキオは、静かにその本を閉じた。心なしか、顔色が悪くなっている。
調合の書かと思ったのに、まさかノーラが……
「あなた、クルトアイズさんがお見えですよ」
後ろから掛けられたノーラの声に、ビクッと体が跳ねる。
「どうかいたしましたか?」
「なっ、なな何でもない!!」
後ろから覗き込んでくる妻の目から日記を隠そうとしたが、僅かな差で取り上げられてしまう。
ハンターの自分より早く動くなんて…
「これは?」
「えっ…と、調合の書かと思って開いてしまったんだが……すまないっ」
無理だ、隠しきれる筈がない。
「…………そうでしたか」
ん?……怒ってない?
当然怒るだろうと思っていた妻の予想外の反応に心の中で安堵の息を吐いたキオだったが、彼のその考えは少々甘かった。
「困りましたわクルトアイズさん、夫が私の日記を読んでしまったんですが…」
「レディーの日記を無断で読むとはけしからんな。キオ」
ノーラの後ろでずっと話を聞いていたクルトアイズ。
咎めるような口調とは裏腹に、彼の口元には薄く笑みが浮かんでいた。
嫌な予感と共に、キオの背筋に冷や汗が伝う。
こんな緊張はクシャルダオラと戦っているときでさえ感じたことがなかった。
「ク…クルトアイズ?」
「ノーラ、君の夫を少々お借りするが?」
「ちょっ!!」
「ええどうぞ。夫の師匠として、しっかりと躾をお願いいたします」
「ノーラ!!!?」
「だそうだ。さてと、向こうの部屋でゆっくりと話を聞こうか?」
元師匠と妻の共同戦線に、キオのなす術はなかった。
その日ノーラは、優に一週間分の保養を済ませたとか。
〈了〉