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□師弟関係
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浮き立っていた気持ちが、急速に萎んでいくのが判った。
「…クルトアイズ…」
其処には、つい先刻まで会いたくて仕方が無かった筈の師匠の姿が在った。何やら紅い服の、ハンターと思わしき男と話し込んでいる。
久々に見るクルトアイズは、驚く程五年前と何も変わっていなかった。いや、強いて言うならば、髪が少し長くなっているようではあるが。
しかしそれは、あくまでも外見の話である。
あの超イャンクック砲が本当にクルトアイズのものであるならば、怪我をしていたにも関わらず、その腕前は以前より格段に上がっている事になる。
そして何より、キオがやっとの思いで完成させたイャンクック砲は――
「……必要…無い、よな…」
考えてみれば、十分に有り得る話だった。いや、寧ろ当然の流れかも知れない。
あのクルトアイズが、五年もの間、只の怪我人のまま燻ぶり続けていた筈が無い。
武器を新調している、という可能性を思い付かない程に浮かれて居た自分に今更気付き、自己嫌悪に陥る。
「…俺、何しに来たんだろ…」
背負っていたイャンクック砲を下ろし、自問する。
これ以上、此の場に留まる意味を見出せなかった。
「…宿、探しに行かなきゃな…」
まるで店を出る為の言い訳を自分に言い聞かせるかの様に呟き、キオはのろのろと重たい足を出口へと向けた。
と、その時。
「キオ…?」
懐かしい声が、キオの名を呟くのが聞こえた。思わず足を止めてしまい、振り返りたい衝動を必死で抑える。
「キオ!!」
今度ははっきりと、呼び止める意志を持って名が呼ばれる。
その声の主が誰なのかなど、考えずとも判りきっていた。
「おい、キオ!?」
しかし自分を呼ぶ師匠の声になど当然応じられる筈も無く、キオは全速力で店から逃げ出したのだった。
▲▽▲▽▲
「…っはぁ…はぁ…はぁ…」
どれ程走っただろうか。流石に息苦しさを覚えたキオは、辿り着いた広場の噴水の縁に腰掛け、呼吸を整える。
どんな手強いモンスターから逃げるよりも必死に走った気がして、自嘲的な笑みを浮かべた。
「…これ…どうしよう…」
これ、とは勿論イャンクック砲の事だ。
折角頑張って作ったのだから、本当はちゃんと渡したかった。絶対に本人には言えないが
これを持ったクルトアイズと一緒に狩りへ出る事を、密かに楽しみにもしていたのだ。
だが、今更になって現在よりも威力の低い武器を貰ってもクルトアイズは迷惑だろうし、これ以上このイャンクック砲を持っているのも辛かった。
「…やっぱり、棄ててしまおう」
とはいえゴミ箱に棄てる訳にもゆかず、ならば人目に着かない場所に投棄してしまおうと、キオは路地裏へ向かった。