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□太古の森と漆黒の獣
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 茂みから現れたそれは確かに人間だった。
 ハンターである自分と違うところを挙げるとするならば防具と思われる物を何一つ身に付けていないという点。しかし、その右足には武器とおぼしき包みが巻き付けてある。




 G級のクエストで防具を着けないという点に関してテオの頭に疑問は残ったものの「クエストに出る時、絶対に防具を着けない勇者さんがいるらしいのよぉ〜…」
 と、随分前に酒場のギルドマネージャーから聞いた話を思いだし彼もその一人かと納得する。



 対モンスター用の武器を人間に向けてはいけないという規則を思い出し、彼は武器を下ろして目の前の人物に話し掛けた。
「樹海は今、双子の迅竜の出現で狩猟クエストを受注したハンター以外の立ち入りは禁止されている筈だが?」
「そうなのか?そいつは知らなかったな。俺は唯、探し物してただけなんだが。どうりでいつもより静かなわけだ」


 切れ長の目を僅かに見開く男の様子からしてどうやら本当に知らなかったらしい。
ギルドからの知らせが行き届いておらず誤って樹海に足を踏み入れたのならば、一風変わった武器を持つこの男を自分が拠点まで無事送り届けるのも自分の仕事だ。





「それで、その探し物は見付かったのか?」
「ああ見付けたぜ」
「なら、俺が拠点まで送る。村に帰ったらギルドに樹海の状況を聞いてみろ、今は立ち入り禁止区域に指定されている筈だ」
 影の正体が人間だったことに安心したテオは、武器を背中の鞘に納め男に近付いた。





◆□◆□◆






 漆黒の長髪と紅の瞳、隙の無い動きに「どんな修羅場を潜ったらここまで研ぎ澄まされた空気を纏えるんだ?」等と考えながら男の目の前まで来ると、テオは右手を差し出す。

「俺の名前はテオ。あんたは?」
「グロースって呼んでくれ」
 男も自らの名を名乗り、テオが差し出した手を握り返す。
 手はすぐに離れたが、その瞬間男の体から微かに漂ってきた匂いに、テオの眉が僅かに潜められた。








(これは、ペイントボールの匂い?)













 ペイントの実とネンチャク草との調合により得ることができるペイントボールは調合の際、配分量の違いからか個人個人で僅かに匂いに変化生じる。
 近くで嗅がなければ分からない違いだが
 グロースと名乗ったその男からした匂いは、確かにテオの作ったペイントボールのものだった。




 大型モンスター並みに鋭い空気を纏い人間ならば決して付く筈の無い匂いを付けているその男に、テオの中で嫌な考えが頭をもたげる。


(まさかこいつ………いや、常識で考えろ。そんなことがある筈ない)
 常識でその考えを否定しようとするが、これまでの状況を考えると、その仮説を完全に否定することはできなかった。














「なぁ…」















 グロースが肯定してくれることを祈りつつ、テオは口を開く。


















「あんた……人間だよな?」























 目の前い立つ男の口角が持ち上がり、その紅い瞳が細められる。





















「あんたはどう思う?」



 テオの頬を、一筋の汗が伝った。










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