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□太古の森と漆黒の獣
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「……っ…」
笑みを浮かべたまま近付いてくるグロースから離れようと、テオはまた一歩後ずさる。
今すぐにでもこの空間から抜け出したいのだが、一瞬でも気を抜けば呑み込まれてしまいそうな程の威圧に足が動かない。
(くそっ、せめて奴に一撃与えられれば)
グロースの気が少しでも逸れればその隙をついて距離をとることも可能だ。
しかし、ハンターを目の前にしたモンスターが付け入られる隙を見せるなど有り得ないことは新米ハンターでも知っている常識だった。
「…………!!!?」
後ずさっていたテオの背中が固いものに当たる。
這わせた手の平が伝えてきた感触が、彼がいつの間にか追い詰められていたことを教えていた。
辺りを確認し逃げ道を探そうとしたテオの視界を顔の脇に置かれた片手が遮る。
上を向くと、楽しそうに細められた瞳と目線が合った。
「なぁ……俺の探しモン、何だったと思う?」
「……………?」
突然掛けられた質問の意図を図りかねたのか、隙を窺っていたテオの眉が寄せられる。
男にしては少々長いテオの髪を弄んでいたグロースの指が、その頬をつぅ…となぞった。
「あんただよ」
その瞬間テオを襲ったもの。それは、どれ程強い武器や防具を作ろうとも決して拭うことの出来無い本能的な恐怖だった。
(喰われる!!?)
「っ!…らあっ!!!!」
咄嗟に剣を抜きグロースに斬り付ける。彼が腕で防御した一瞬の隙に、テオはエリア7へ続く道を全速力で駆け出した。
◆□◆□◆
「………………」
エリア6に残されたグロースは、テオに付けられた傷をじっと見ていた。
服を裂き腕に薄く刻まれた赤い線からは僅かながら出血が見られる。
(流石はG級ハンターだな。武器も反応も悪くない………だが)
「少し、考えが甘いか」
そう呟いた彼の背後に黒い塊が降り立つ。
「…………………」
「そう急かすなって。獲物は元気な方がお前だって燃えるだろ?それに……」
傷口に滲んだ血を舐め取り、グロースはテオの走り去った方向へと歩き始める。
「俺達から………逃げられはしないさ」
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