TRIGUN

□another endless song
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「うわっ。凄い、何だい!?コレ?」
 驚く少年の視線は、目の前に生えた小さな木に注がれている。
「これで、少しは食料の足しになるだろう」
「うわリンゴだ!!!こんなふうに生えるの?」
 小さいがしっかりと実を付けているリンゴの木に、カリートは感動を覚えていた。


 興味津津で小さな木の周りを走り回るカリートを眺めていたナイブズは唐突に立ち上がった。
「あいつを…頼む」
「え?あの…何処か行くの?」
「…………」

 その沈黙をYESととったのか、カリートは心配そうな声で尋ねる。
「えと…あの…それ、ヴァッシュにはちゃんと言った?…だめだよそんなん。ヴァッシュー!!」
「おーいナイブズ!弟が呼んでるぞー」
 カリートが家に駆け出そうとした瞬間、家の中から出てきたマックスが彼の名前呼ぶ。


(ヴァッシュが俺を?何の用だ)
「ヴァッシュが呼んでるって、行こうよナイブズ。黙って行くなんてだめだよ!」
「………ああ…」
 ナイブズは霧散してしまいそうになる体を無理矢理保たせ、半ばカリートに引きずられるように家へと向かった。



「ただいまヴァッシュ!!」
「やぁ、お帰り」
 家に入ると、ソファーに座っていたヴァッシュが立ち上がって二人を迎える。
「…体は大丈夫なのか?」
「まだ万全って訳じゃないけど、家の中を歩き回る位なら問題無いよ」
「ったく、あんたらの体の仕組みが知りたいね。どうしたらあの傷がこんな短期間に治るんだ?」
 ヴァッシュがナイブズに抱えられて文字通り「飛び込んで」きてから数日
 つきっきりで傷の手当てを施していたマックスが頭を掻きながら問い掛ける。

「へへへ…僕たちの体って特別製なんだ」
「そうかい…まっ、この星には化け物みたいな人間がウヨウヨしてんだ
 あんたらみたいのがいてもおかしくはないだろうな……さてと、飯の支度でもするか」
「僕、ホットケーキがいい!」
「その代わり手伝えよ」
「うんっ!!」


 そんな会話をしながら親子が台所に消えるのを見送ると、ナイブズはヴァッシュに視線を戻す。
「用事があるんじゃないのか?」
 すると、ヴァッシュはその問いに答える代りにナイブズの手を握り込んだ。
「おい…」

「お前、消える気だろ」

 「何をする?」と続けようとしたナイブズを遮り、ヴァッシュが口を開く。


「………ッ!!」
 ヴァッシュの言葉にナイブズの体が硬直する。
「あの時、お前だって限界が近かったはずだ。それなのに、意識の無かった俺を抱えてここまで飛んで来ただろ。
 あんなことをして、無事なはずないじゃないか」
 ヴァッシュがそう言った瞬間、ナイブズはかつて同胞を取り込んだ時と同じ力の流れを感じた。
 それと同時に、ヴァッシュの頭髪に僅かに残っていた金色が黒に変わる。


「…ッ!?ヴァッシュ!!」
 バシッという音と共に、驚きに目を見開いたナイブズがヴァッシュの手を振り払った。
「おいどうした!?」
「ナイブズどうしたの?」
 ナイブズの声を聞きつけ、台所から親子が飛び出してくる。

「もう…お前に、俺の前から消えてほしくないんだ」
 ナイブズの腕の中に力なく倒れ込んだヴァッシュは、疲労しきった声でそう言うと静かに目を閉じた。



●○●○●



「ったく、元気になったかと思えばぶっ倒れやがって」
 ベッドに運ばれたヴァッシュの脈をとりながら、マックスが文句を言う。
「体は?」
「異常は無いから大丈夫だが、こいつはしばらく絶対安静だ、また倒れてもらっても困るしな」
 マックスは心配そうに聞てくるナイブズにそう答えると、めくっていた布団を戻して立ち上がった。


(良かった…)
「ところであんた、髪染めたかい?」
 ホッと安堵のため息をついたナイブズに、「ここ」と頭の左側を指差しながら、マックスが問いかける。
「……いや…」
「後で鏡見てみろよ。じゃあ、こいつのこと見ていてくれな、俺は飯の続き作らなけりゃなんねぇから」
 不思議そうな顔をしているナイブズを置き去りにし、マックスは息子が調理器具と奮闘しているであろう台所へと戻っていく。



 力を使い果たし漆黒になっているはずの彼の頭を見て、髪を染めたか?
 と尋ねてきたマックスの言葉が気にかかり、部屋の壁に備え付けられている鏡を覗いたナイブズは愕然とした。

「………ッ!?これは…」
 左の前髪…丁度、弟と反対の位置にある一房の髪が金色に染まっていた。
 ふと気が付くと、気を抜けば塵となって消
えてしまいそうな程脆くなっていた体も元に戻っている。



「ヴァッシュ…………俺はお前の守ろうとしたものを壊し、お前自身さえ殺そうとした。
 こんな俺でも、消えて欲しくないと望んでくれるのか……?」
 ベッドの脇にしゃがみ、目の前で眠る双子の弟に向かって呟いたナイブズの頬を涙が伝った。






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