TRIGUN

□金色ワカメの襲来
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「何をする気ですのミリィ?」
 ぐつぐつと煮えている鍋の前で、バナナサンデーを片手にメリルは口を開いた。



 始まりは数時間前に遡る……





●○●○●






「んー…」
「ヴァッシュさん、何だか今日機嫌良くないですか?」
 歩きながら大きく伸びをするヴァッシュに、後ろを歩いていたミリィが話しかけた。



「いやぁ、最近あまりトラブルに巻き込まれてないからね。やっぱり平和が一番だよ」
 そう言って笑いながらヴァッシュが指で形作るのは、彼の生き様とも言えるLOVE&PEACE。
「平和はわかりますが、今の話に愛は関係ありませんでしたわよ」

「分かってないなぁ。平和ってのは愛があってこそじつげn…「愛ならあるで!」」
 ヴァッシュの熱弁を遮って響いた関西弁と共に、赤いコートがグイッと引き寄せられる。




「ワイがトンガリの愛や!」
「ちょっ、ウルフウッド!?」
「間違っとらんやろ、ワイら恋人同士なんやし」
 ヴァッシュは慌てて離れようとしたが、耳元で囁かれた言葉に顔を赤くして俯く。


「どうして君は、そう恥ずかしいことを…」
「愛があればなんでも言えるんや‼」
「何を言ったのですか?」
 二人の会話に、カメレオン顔負けの素早さでメリルが食い付いてきた。






(まずい、保険屋さんの変なスイッチが入った!!)
 メリルのスイッチONはヴァッシュにとって非常に有り難くない事態である。なぜなら…


「さぁウルフウッドさん、今ヴァッシュさんとした会話を一字一句間違えずに教えて下さい‼」
「ええでちっさい姉ちゃん、よお聞きや。今な、こいつの肩抱いたら嫌がったやろ
 せやから耳んとこでk……「わぁー!だめだめだめだめ言っちゃだめぇー!!」…何やねん」


 ………ウルフウッドが悪のりするのだ。






「別にええやんけ、減るもんでもあらへんし」
「駄目に決まってるじゃないか!保険屋さんが僕たちの会話をもとに本を書いてるって知ってるだろ‼」
 メリルがその道にはまりこんだのはつい最近のこと。
以来報告書と共に更新される話は、<メリルの密着薔薇物語>としてベルナルデリ保険協会内の女性逹に大変な人気を呼んでいる。



数ヵ月後には本として販売されるというのだから、毎日のように書いている報告書で鍛えられた文章作成能力は侮れない。





「安心して下さい、ちゃんと名前は変えてありますから誰もあなた方だとは解りませんですわ」
「良かったやないかトンガリ、名前出ぇへんのやて」
 胸を張って断言するメリルとそれに便乗してくるウルフウッドの二人に、ヴァッシュの突っ込む気力はとうの昔に失せていた。


(せめて、二人の興味が別の方向に向けば良いのに……レム…助けて)




「皆さぁーん。面白いことやりませんかぁ?」
 天下の人間台風が現実逃避に走りかけていると、つい先程までその辺りの見知らぬ他人と親しげに話していたミリィが
 手を振りながら三人の方へ向かって駆け寄ってきた。





「面白いことってなんですのミリィ?」
(もうひとりの保険屋さんグッジョブ!)
 メリルの意識がウルフウッドからミリィに向いた瞬間、ヴァッシュは心の中で密かにガッツポーズをつくる。


「えへへ〜〜それは秘密なんですけどぉ、皆さんに用意してもらいたいものがあるんですぅ」
「用意するもんて何や?愛か?」
「君はいい加減、愛から離れたらどうだい…てか、愛を用意するってなんだよ」
 ヴァッシュが呆れたようにウルフウッドに突っ込みを入れるが、既にその声に覇気は無い。




「えーとですね、皆さんの好きな食べ物を持ってきてほしいんです」











「好きな食べ物…ですか」
「ホンマになにする気なんや?」
「それは今夜の楽しみですってば。じゃあ皆さん、今夜好きな食べ物を持って私の部屋に集まってくださいねぇ」
 準備があるからと元気良く走り去っていくミリィの背中を見送ると、取り残された3人は顔を見合わせた。



「どないする?」
「そんなこと僕に聞かないでくれよ…あと、いい加減離してくれないかな」
「ちぇっ、つれへんやっちゃな。まぁ、そないなとこも可愛いねんけど…」
 愚痴とも何ともつかないことを呟きながら、ウルフウッドは渋々と手を離す。



「仕方ないですわね。あの子が折角考えてくれた事ですし、ここは黙って夜まで待たせていただきますか
 あっ、ウルフウッドさん。話は後程詳しく聞かせていただいますわ」
 メリルはさりげなくウルフウッドに情報提供を取り付けると、ミリィとは反対方向へ颯爽と歩いていく。






「保険屋さんが何をしたいのかはさておき、好きな食べ物を持ってこいってことは多分悪いことじゃないよね」
「おっきい姉ちゃんのことや、ホンマにワイ等んこと楽しませよ思とんのやろ。ほな、行こか」
「そうだね。にしても好きな食べ物か……やっぱりドーナツかなぁ」
「オドレ、ホンにドーナツ好きやな」
「悪いかよ…………」







 そして、話は冒頭へ……




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