TRIGUN

□鬼の花嫁
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「「指切りげんまん、嘘ついたら針せんぼん飲〜ます。指切った!!」」






 ザアザアと降りしきる雨の中。大きく張り出した巨石の下から聞こえるまだ幼い二人の少年の声。

 一人は漆黒の髪に深い紺の瞳と褐色の肌、額から二本の角を生やした鬼の子供。
 向かいで彼と小指を絡めているのは、対照的な白い肌にこの地に住む者としては珍しい金の髪と透き通った碧い瞳を持つ人間の子供だった。


「約束やでヴァッシュ。ワイ、大きゅうなったら絶対にオドレん婿さんになるさかい」
「うん。僕が大人になったら、絶対に君のお嫁さんになる。約束だよ、ウルフウッド」
 鬼の村で行われた結婚式をこっそりと覗いた帰り道。
 急に降り出したにわか雨を避けるために駆け込んだ岩の下で冷めぬ興奮を語り合っていた子供達の会話は、いつの間にか婚約の誓いへと変わっていた。

 深海を思わせる濃紺の瞳と翡翠を嵌め込んだような碧い瞳が、互いの笑顔を写す。



「……あっ」
 突然、ヴァッシュが小さく声を上げ外へと視線を移した。
「どないした?」
「雨、止んだみたい」
 ヴァッシュは絡ませていた小指をほどくと、ウルフウッドの掌を掴み駈け出す。
 ウルフウッドもその手を握り返し、薄暗い岩の下からまだ明るい空の下へ足を踏み出した。






 葉の上に残った水滴が夕日を反射して光る中、山の中にたった一つだけあるヴァッシュの村へ通じる一本道に出た二人は互いに握り合っていた手を離す。
 子供とは言え鬼であるウルフウッドが人の前に姿を見せれば、人の命を脅かす存在として「退治」されてしまう恐れがあるからだ。
「明日は何して遊ぼうか?」
「せやなぁ……てっぺんのお堂行くっちゅうんはどうや?」
「じゃあ、明日はお堂の中をたんけんしようか」
「おう!!明日もぎょーさん遊ぼうな」
「うん!」


 金色の髪をふわふわと揺らしながら帰っていくヴァッシュの後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、ウルフウッドも意気揚々と自らの村へと戻って行った。




●○●○●




 しかしその数日後、紐の付けられた木彫りの鳥と謝罪の言葉が書かれた紙きれを残して、ウルフウッドはヴァッシュの前から姿を消した。




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