TRIGUN

□鬼の花嫁
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「ヴァッシュ、麓に出るから準備してくれないかしら?」
「分かった」
 友人が姿を消してから十数年。心の奥底に幼い日の約束を抱えたまま、少年は青年へと成長していた。
 特徴的な金髪を布で覆い隠し瞳の色を悟られないようその上から笠を目深に被ると、ヴァッシュは家の外で待っている育ての親の元へ向かう。



「ごめんなさいね、こんなことに突き合せてしまって」
「この位何てことないさ。先生が死んじゃってルイーダだけじゃ色々大変だろ?」
 ほんの小さな赤子の頃に夫婦に拾われ育てられたヴァッシュにとって、2人は大切な家族であると同時に命の恩人でもあった。

 ルイーダの夫が亡くなってから遣り繰りの厳しくなったこの家で少しでも残された彼女の役に立ちたいと
 外の人間に見られれば無事では済まないことを承知で彼は山を下りる。





●○●○●





「?……あれ」


 麓での用事を終え村へ帰ろうと荷物の入った籠を背負い上げたヴァッシュは、ふと、首筋に妙な違和感を覚えた。
 手を伸ばすと、頭を覆っている布の結び目が取れかかっている。

「どうかしたの?あら、珍しいわね」
「ああ、帰る前にほどけそうになるなんて初めてだよ。結び直してくるから、ちょっと待ってて」
 ルイーダの足元に荷物を下ろし、人に見付からないような場所を探してヴァッシュは小さな林の中へ入って行く。


 手頃な茂みの陰で緩んでいた結び目を解き布を取り払うと、汗ばんでいた頭皮に外気が涼しく感じた。

 数年前訪れた違う村で自分たちとは異なる色合いの彼を見た住民から「化け物」と罵られ石をぶつけられて以来、山を下りている間は必ず頭と顔を隠している。
 人々の冷たい目線に晒されることに対する嫌悪もあったが、やはりルイーダたち二人に自分のことで迷惑をかけるのが嫌だというのが一番の理由。




 今では仕方が無いと開き直っているが、幼い頃は他の人間のような黒い髪と瞳を持ちたいと何度も願い自らの色の薄さを憎んだ。
だがその度に思い出していたのは、育ての親と友に言われた言葉。



『ヴァッシュの髪は綺麗ね。例えるなら金色の糸……かしら?』
『そうじゃの、誠に美しい色をしておる』

 そう言って、笑いながら頭を撫でてくれた二人の恩人。

『オドレの眼、ジジイが見せてくれた「ぎやまん」ちゅうんにそっくりや。ワイ、そん色好きやねん。せやからそないなこと言わんといて』

 黒い瞳になりたいと言ったら、彼なりに精一杯励ましてくれた親友。



 たった三人だけだったが、それだけで憎くて仕方が無かった金と碧を好きになれた。








「………よしっ」
 家に帰るまでほどけないようしっかり結んで立ち上がると、地面に付けていた膝を軽くはたいてもと来た道を駆け出す。














 その姿を、木の陰から一つの影が見ていた。





「あれは………異人?」



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