TRIGUN
□cigarette
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昼夜を問わず歩き東ディセムバに辿り着いたのは数日後の夕方。
孤児院の目の前に着く頃には五つの月が上り、昼間の暑さに変わって凍るような寒さが体を包む。
掃除され、半年前に自分が彼を埋めた時より綺麗になっている墓の前でコートから出したくしゃくしゃの箱から一本抜き取る。
元の持ち主がやっていたのを真似て先端に火を近付け息を吸うと、気管を通って肺にざらりとした何かが入り込んできた。
「うっ…ぐ、げほっ…ごほごほっ…っ」
砂埃をまともに食らった時の様に喉から水分が無くなる。
こいつ、いつもこんなモン吸ってたのか!?
指に挟んだソレを確認すると、先端の包み紙が僅かに焦げているのみでまだ火は点いていない。
「……嘘だろ?」
何度も噎せながらやっとの思いで火を点け、暗闇の中にポツンと灯った小さな光を墓石の上に立て空を仰ぐ。
まだ当分明けそうにない夜に甘えてもう少しだけここにいさせてもらおうと
燃え尽きたマッチが散乱する地面に腰を下ろして布に包まれたパニッシャーにもたれ掛かった。
●○●○●
「……そしたら取材屋さんが真後ろにいてね、驚いたなぁ。こっちも全力で走ってる筈なのにしっかりと追い掛けてくるんだもん」
地球から船が来たこと。
「不殺」の戒めを外してレガートを殺してしまったこと。
ナイブズと共に逃げたこと。
偶然降り立った協会で医者親子に助けられたこと。
取材屋に転職した元保険屋の2人、地球軍、賞金首御一行に見付かって以前と同じ様に砂漠の中を追い掛け回されたこと。
五番目の月が西に傾き空が僅かに白むまで、墓に入ってるあいつに自分が体験してきた出来事を話した。
いつの間にか燃え尽きか細い煙を漂わせていた一摘まみの灰が、夜明けの風に散らされる。
朝が早い人ならばもうそろそろ起き出す時間だ。
本当は孤児院にいるリヴィオ達に挨拶のひとつでもしたかったが、その間に取材屋さん辺りに見付かって子供達に迷惑をかけるのも申し訳ない。
「よっ……っ!?」
立ち上がろうと体を屈めた瞬間、襟元から仄かに香ったその匂いに思考が止まりかける。
ずっと煙の中に座っていたからコートに匂いが染み込んでるのは当たり前だと頭では分かっているが、全身から漂うそれに頭の奥がクラクラと揺れた。
「あ、れ…?」
目頭からじわりと溢れ頬を流れ落ちた何かが涙だと理解するのに数秒。
「全く…………あれだけ泣いたのにまだ出るなんて信じらんないよ……」
滴と共に流れ出した感情に彼が身を任せるまであと少し。
<了>
夕様、リクエストありがとうございました。