TRIGUN
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機械音が小さく響く部屋。
そこに置かれたガラス製の円柱容器の中で長い銀色の髪が培養液の流動に合わせるようにゆっくりと舞っている。
「彼」は生まれた時からこの入れ物の中にいた。
正確に言うならば『気が付けばそこに存在して』いた。
自身に関する情報は皆無。
唯一の楽しみは、毎日決まった時間にやって来る白衣の男が「彼」に伝えてくる外の世界の情報だけ。
つまらない…
同じものが同じ周期で動く、対流に巻かれる髪や泡でさえ幾つかのパターンの繰り返しと気付いてからは暇潰しにもならなくなった。
もう少し面白味のあるものが見たい……
そんなことを考えていた「彼」の耳に入った聞き覚えのないゴボリという音。
それとと同時に、容器の中を満たしていた培養液が抜けていく。
液体による浮力に代わって容器の中を重力が支配し始める。
スゥ……と息を吸って肺に酸素を送り込むと「彼」は自らの持つ二本の足で開かれた培養槽の外へ歩み出た。
「どうだい?初めて外に出た気分は」
「……悪くはねえ」
機械を操作していた男の言葉に答え、「彼」は長い前髪を邪魔だとばかりに掻き上げ然程広いとも言えない部屋の内部を見渡す。
「あそこにあるのが君の服だ。また後で来るからそれまでに着替えておいてくれ」
壁に並ぶ機械の僅かな隙間で異彩を放つ漆黒のコートと本棚を指さしそれだけ言うと、男はファイルを抱え慌ただしく部屋を出て行った。
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「へえ、良いセンスしてんじゃん」
そんな事を呟きながら本棚の中段に置かれていたアンダーとズボンを身に付け、底に金属加工の施されたブーツの留め具を締めると
艶やかに黒光りするリボルバー銃の収まるホルスターと弾の入ったポーチの付いたガンベルトを腰に巻く。
最後に漆黒のコートを纏うと、何かを求めるように本棚へ紅い瞳をめぐらせる。
上から下まで日付の書かれたファイルに埋め尽くされているそこから一番古いものを取り出すと「彼」は徐にページを捲り始めた。
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