TRIGUN

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 最後の記録は前日のもの。
 これまでの記録から、検体1044が自身の名称であると理解するのはそう難しいことではなかった。



 造った、完成した、その後はどうする?

 知りたいのは「どのように造ったか」ではなく「どうして造ったか」。
 自我の芽生えた時からずっと抱えていた疑問の答えは、やはり自らを造った者自身に聞くしか無いらしい。




 「彼」がファイルを棚に戻すのと前後して部屋の扉が開かれ見慣れた顔が入ってくる。


「着替え終わったみたいだね。ついて来てくれ」






●○●○●



 短い足をせかせか動かす白衣の後ろにつき暗く長い廊下を歩く。
 やがて現れた重厚な扉の前で彼が止まると、待っていたかのようにそこが口を開いた。



 真っ黒な闇の広がる部屋の中へ足を踏み入れ数歩進んだところで、開いた時と同じように重い音をたて扉が閉まる。
 暫くして明るくなった室内にいたのは、半円状に並べられた机の前に腰掛けている5人の老人。


「これがか?」
「はい、検体1044でございます」
「ほう…」
「何と」
 男が答えた瞬間ざわめきが広がり、一斉に「彼」へ好奇の目が向けられる。
 やがて、彼等の一人が「彼」に向かって口を開いた。


「なぜ貴様は造られたと思う?」


 その質問に「彼」の唇が緩い弧を描く。

「俺はずっとそいつが知りたかったんだ。あんた達は何がしたくて俺を造った?」

 その質問に、老人たちが口々に答える。
「貴様はこの街の…いや、我等のプラントを守り邪魔な者達を排除するための駒として生み出されたのだ」
「そのために単独で都市を滅ぼした賞金首の遺伝子まで使ったのだから、しっかり働いてくれたまえ」
「遺伝子といえば思わぬ収穫もあったな」
「ああ、まさか自立するプラントなぞが存在するとは夢にも思わなんだ」


 プラント……水、酸素、微電力を糧とし、データとして打ち込まれたものをあらゆる物理法則を無視して生み出すモノ。


 彼らは揃って己が一族が今代に至るまで街の発展にどれほど尽力してきたかを、よって街にあるプラントを占有する正当な権利が自分達あるということを熱く語る。
 だが、それを聞く「彼」の口から出た言葉に込められた感情は、創造主の命令を聞くために造られた存在のものにしてはあまりにも関心が無さすぎた。





「そんな下らない事のために俺を造ったのか?」






 その一言に、男達は机から身を乗り出し声を荒げる。
「駒の分際で何を言うか!!!」
「貴様は我等の命令通りに行動していれば良いのだ!!」
「道具ならば道具らしく……」



 一言も発することなく黙って老人達の罵詈雑言を聞いていた「彼」の赤い瞳がふっと細められた瞬間
 室内に響き渡ったドンという音と共に、彼を罵っていた男の一人が糸の切れた人形のように床に崩れ落ちた。



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