TRIGUN
□4月1日
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「ウルフウッド、好きだ」
突然言われたその言葉に大して驚いた風もなく、ウルフウッドは新聞に向けていた視線を声のした方へ移す。
そこにいたのは情けない顔をした金髪の同居人。
「初めて会った時から、ずっと君のことばかり想ってた」
「………」
何も反応しないウルフウッドと睨み合うこと数十秒、ヴァッシュは何かを諦めたように溜め息を吐き口を開いた。
「……なんて「ワイもや」…え?」
ヴァッシュの言葉を遮るように、ウルフウッドの声が静かな部屋に響く。
その意味を理解する前に、ヴァッシュの体が床に押し倒された。
「ヴァッシュ。ワイもずっと、お前んことが好きやった」
覆い被さり至極真面目な顔でそう言い放ったウルフウッドは、そのままの体勢で顔を近付け始める。
「えっ、ちょ……ちょっと…!?」
だんだんと縮まる距離とその結果起こり得るであろう事態から逃げるように、ヴァッシュは強く目を閉じた。
その様子にふっと表情を和らげ、ウルフウッドはヴァッシュの耳元に顔を寄せる。
「何てな」
「…へっ?」
危惧していたものとは違う相手の行動に、ヴァッシュの口から漏れたのは何とも間抜けな声。
「今日がエイプリルフールやって事ぐらい知っとる」
「……あ…やっぱり?」
4月1日。通称「エイプリールフール」
一年のうち一日だけ嘘が「悪」と認識されない日。
悪戯のばれた子供の様に頭を掻きながら「へへへ…」と笑う金髪をウルフウッドは鼻で笑った。
「大方エレンディラ辺りんでも吹き込まれたんやろうけど、いっつも頭ん中ポワポワしとるオンドレがワイを騙そうなん100万年早いわボケ」
「そこまで言うか…」
あまりの言われように最早反論する気も起きない。
「こないなアホな事やっとらんでさっさと洗ってき」
「はいはい」
読みかけの新聞に目を戻したウルフウッドに食器を指差され、いい加減な返事と共にヴァッシュは台所へ向かった。
(驚いた……)
泡の着いたスポンジで食器を擦りながらヴァッシュは先程居間で起きたことを思い出す。
(まだドキドキしてる……朝っぱらから心臓に悪い事なんてするもんじゃないな…)
「首なん傾げてどないした?」
いつの間に来たのか、隣でコーヒーを淹れていたウルフウッドに声を掛けられる。
「んー…君のせいで寿命縮んだんじゃないかなぁって」
「何や、そないにビビったん?」
「ああ、すっごく驚いた」
「……もっぺんやったろか?」
「………僕を殺す気?」
鳴り止まない鼓動は果たして驚きだけのものなのか……
〈了〉
[後書き+補足説明]
カレンダーを見て思いついたものをつらつらと………なんともありがちなネタですね。
最後まで読んでくださり感謝します。
(補) ヴァッシュに恋心はありません。
ウルフウッドは…?
エレンディラは二人の仕事仲間。