◆リクエスト話◆

□眠れぬ夜に
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「千鶴ちゃん、映画観よう?」




学校の無い土曜日の昼間、唐突に発せられた沖田の発言に、千鶴は勉強の手を止めキョトンと小首を傾げる。


「映画…、ですか?」

「うん」


「今から…、ですか?」

「うん。あ、と言ってもね、借りてきたDVDなんだけど」



レンタル用の袋を見せる沖田に、千鶴は「はぁ…」と答える。



リビングにある土方所有のホームシアターで観るのだろう。


最近は映画がDVDになるのが早く、観たい映画がDVDになってから借りて観る事が多い。

高校生のお小遣いで映画のチケット代はそれなりに手痛い出費なのだ。




「…あの、何の映画なんですか?」

「えっとね、何だったかなぁ…。忘れちゃったけど、たしか千鶴ちゃんの好きそうなのだった気がするよ」


「はぁ…」


ニコニコ笑いながら言う沖田に千鶴は戸惑いながらも頷く。


正直言うと勉強をしている最中のため、夕食後では駄目なのかと思う。

しかも解らない箇所を横から斎藤が教えてくれているから尚更だ。




「総司ー、千鶴勉強してんだから後にしろよー」


ソファに寝転がりながらゲームをしていた平助の間延びした言い方に、沖田は不思議そうに眉を潜める。


「…勉強って、家でするものなの?授業で1回聞いたらわかるじゃん、普通」

「そんな天才みたいな勉強方法はお前だけだっつーの!」


ビシッと沖田に人差し指を突き立てる平助に、沖田は挑戦的な笑みを見せる。


「そう言う平助君こそ、ゲームばっかしてないで少しは勉強でもしたらどう?また赤点取っちゃうよ?」

「う、うっさいな!総司だって土方さんの古典は毎回赤点じゃんか!」


「良いんだよ、土方さんの古典なんか。他の教科は全部90点以上なんだし」


「それに…」と沖田はしたり顔で続ける。

「土方さんの古典だけ成績が悪いとね、自分の授業が良くないんじゃないかって、密かに陰で悩んでる土方さんに凄い嫌がらせだと思わない?」


「あの人基本真面目だから」クスクス忍び笑いを溢す沖田に、3人は土方に同情の色を隠せないでいた。





「で、どうする?映画観るから部屋暗くしちゃうけど、それでもゲームしてたり勉強するの?」


沖田の中では映画を観る事は既に決定事項なのだろう。

斎藤は諦めた様に深い溜め息を吐く。


「こうなった総司を止めるのは難儀だ。千鶴、ここは映画を観るしかないだろう」

「は、はい…」



すると沖田はニコッと3人に笑みを見せる。



「ねぇねぇ。映画観てる時ってさ、何か食べたいじゃない?」



「ん〜…、確かに。映画館じゃ、ポップコーンとメロンソーダは欠かせないよな」

「あぁ。映画を観ていると何故かポップコーンを食べたくなる」


「最近では塩味以外にキャラメル味もありますし、チュロスとかソフトクリームとか…。
どれも目移りしちゃいますよね」


それらを想像したのか、嬉しそうに頬をゆるませる千鶴に沖田は「うん、うん」と、笑顔で頷く。

そしてその顔を斎藤と平助に向ける。




「―――って訳だから、買って来て」


「「……はぁっ!!?」」



「だから、買って来てって言ってるの」


目を剥く斎藤と平助に沖田は余裕な笑みを見せる。


「なんっで、俺と一君なんだよ!総司が行けば良いじゃんか!」

「あぁ。俺と平助が行く理由がわからん。言い出したのならあんたが行けば良い」


「やだな、何言ってるの2人共。そもそも最初に映画を観ようって言ったのは僕だよ?僕に決定権があるのは当たり前でしょう」


沖田はふふん、と得意気に鼻を鳴らす。


「1人で行かせたら可哀想だと思ったから、2人に言ってるんじゃない。
…それとも、何?まさか千鶴ちゃんに買い出しに行かせようっての?君達がそんなに薄情な人達とは思わなかったよ…」


ドン引いた表情で見詰めてくる沖田に、斎藤と平助は瞬時に顔をしかめる。

「千鶴に行かせるとか、んな訳ねーじゃん!!!一君、俺達だけで行こうぜ!」

「あぁ。もちろんだ、平助」


「あ、ホント?良かった。じゃあココに書いてあるの全部買って来て」


ニッコリ微笑みながら渡されたメモを平助は引ったくる様に受け取る。


「すぐ買って来るから待ってろよな!」



「はいはい。行ってらっしゃ〜い」



手を振る沖田を尻目にバタバタ家を出たところでそのメモへと視線を落とした平助は、ギョッとした様に目を見開いて固まってしまった。


「…どうした?平助」

「一君、コレ…」


平助から渡されたメモを見た瞬間、斎藤の表情も強張った。



「…コレ、は……」



そこにはありとあらゆる食べ物の名前が羅列してあった。


数種類のジュースから始まりお菓子やアイス、ロールケーキに杏仁豆腐、更にはおでんや焼き鳥、コロッケや唐揚げやポテト等々。

こんなメモをいつから用意していたのかと驚く程だ。


「…総司の奴、小食のくせになんでこんな…」




「…平助、問題はそれだけではないぞ」


「……え…?」


不思議そうに眉を潜める平助に斎藤は重々しく口を開く。



「この内容を良く見ろ。最低でもコンビニ数件は廻らなければならない」

「えっ!!?」



平助が斎藤から再びメモを渡され良く見ると、ギョッと目を見張る。



そこには親切に『ローソンのロールケーキ、セブンイレブンの杏仁豆腐、ミニストップのソフトクリーム…』等と書かれてあった。




「――…総司の奴…!!!」



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