◆薄桜鬼短編◆
□千鶴観察記5
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今日も懲りずに俺は雪村君が何か不便な事はないか、雪村君を観察する。
俺が雪村君の監視を始めて数刻。
彼女は休む事なく働き続けている。
当番ではないのに昼食の支度・片付けを手伝い、隊士の洗濯を一挙に引き受け、屯所内を掃除し終えた彼女は現在、外で落ち葉を掃き集めている。
すると毎日の様にというか、毎日彼女に何かしらの悪事を働く一番組組長の沖田さんが彼女の元へとやって来た。
『やぁ、千鶴ちゃん。こんにちは』
『――お、沖田さん。
…こ、こんにち、は…』
ニッコリ口角を上げる沖田さんとは反対に、雪村君の表情は引き吊っていたが、何とか笑みを作ろうとしていた。
彼女がああなるのも必然と言えるだろう。
何せ、毎日の様に彼女は沖田さんからの悪事の被害に合っているのだ。
いくら純真無垢な彼女でも、警戒をするのは当たり前だ。
しかしいくら彼女が警戒しても、あの沖田さんから彼女が逃れられるはずもなく、一体彼女は今日はどんな目に合うのだろうか――…。
『どうしたの千鶴ちゃん?顔が引き吊ってるみたいだけど。
僕とは会いたくなかった?』
『そ、そんな事はありません!!!』
『だよね。そんな事言ったら、さすがの僕も千鶴ちゃんを斬っちゃうとこだよ。
ところで千鶴ちゃん。僕昨日、夜の巡察だったんだけど、なんで出迎えてくれなかったの?』
『――――えっ…』
『この前一君が夜の巡察の時は出迎えてたのに、なんで昨日は僕を出迎えてくれなかったわけ?』
沖田さんはニコニコ笑ってはいるが、あの顔は物凄い怒っているのだと彼と数年接している者にはわかる事が出来る。
彼女も沖田さんから数々の悪事を受けている身からか、彼が怒っているのを察したらしく目を見開いている。
『すっ、すみません。昨日はちょっと風邪気味で…、土方さんからすぐ休むように言われまして…』
『…ふーん。君は自分の体調、強いては土方さんから言われたからって、夜の巡察で斬り合いになった僕の出迎えもしないで、とっとと寝付いてたってわけ』
『……す、すみません…』
しゅんと項垂れる雪村君ですが、君は何処にも落ち度はないんですから落ち込む必要等、毛ほどもありませんよ。
むしろ風邪気味の人間にわざわざ出迎えさせようと思う沖田さんが、どうかしてるというもんです。
しかも昨晩の沖田さんは無傷ですが返り血が凄くて、とてもじゃないですが雪村君に見せられたものではありませんでした。
そもそも彼女が夜の巡察の組を出迎える事は、彼女の善意から行われているためそれを強要しよう等、沖田さんの方が非常識なのに雪村君が謝る必要等皆無なのです。
しかし俺のそんな考え等彼女に通じる訳も無く、彼女は本当に申し訳無さそうに沖田さんを伺い見てます。
『…あの沖田さん、本当にごめんなさい…』
『ごめんなさいって言われてもねぇ?君が出迎えてくれなかったのは、事実だし?
あんなにがんばって不逞浪士を斬ったのに君が出迎えてくれなくて、僕はすごく悲しかったなぁ…』
『うぅっ…。ごめんなさい…』
『今更謝っても、もう過ぎた事だしね』
『………では、どうしたらいいですか?』
『――そうだなぁ…。
千鶴ちゃんが今日一日、僕の言う事なんでも聞いてくれたら、許してあげてもいいよ』
上目遣いで尋ねる彼女に、沖田さんはニッコリ笑って見せると、彼女は目を見開いて驚いている。
『な、なんでも…、ですか!?』
『そう。………何、嫌なの?』
『――いっ、いえ!
雪村千鶴、今日一日沖田さんの言う通りにさせて頂きます!』
(――雪村君っ、それだけは駄目だ!!!!!)
俺の必死の呼びかけも彼女には届くはずもなく、彼女が力強く言うと沖田さんはあからさまに、にんまりと笑みを作った。
『じゃあとりあえず、昨日たくさん不逞浪士を斬ったから、いい子いい子ってしてくれる?』
『―――えっ…』
『ほらっ、なんでも言う事聞いてくれるんでしょ?いい子いい子ってしてよ』
(…その理由はどうなのでしょう?)
俺の呆れた嘆きと疑問に反し、
ニコニコ笑みを作る沖田さんに、雪村君は困ったように微笑んだ。
『…で、では、少ししゃがんでもらえますか?
私の背ですと、沖田さんの頭にまで手が届かないので…』
『あぁ、そっか』
沖田さんが雪村君の目の高さに合うようにしゃがむと、雪村君はおずおずと沖田さんの頭を撫で出した。
『――…沖田さんは、いい子ですね』
(―――っ、…ゆ、雪村君!君は可愛すぎる!!!)
ぎこちなくだが、微笑みながら沖田さんの頭を撫でる雪村君。
正直、ものすごく羨ましい光景に歯痒く思っていると、沖田さんはそんな彼女に更に笑みを深めた。
『ふふっ。ありがと、千鶴ちゃん』
すると沖田さんはニッコリ笑って、目の前にあった雪村君の鼻へと口付けた。
「―――なっ!!!!!?」
『おっ、沖田さん!!?』
『ははっ、千鶴ちゃん真っ赤だよ?』
『だっ、だって沖田さんがっ!!!』
真っ赤になった雪村君は鼻を押さえて沖田さんを睨むも、沖田さんは何処か楽しげに雪村君の手を取り歩き出した。
『じゃあ次は君の部屋でお昼寝するから、おいで』
『あ、待って下さい。沖田さん――…』
雪村君を引っ張って行く沖田さんに殺意が沸くも、とりあえず雪村君の部屋の前へと移動する俺だった。
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