天空のその上で…

□君と紡いだ時間
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※   ※   ※





「七海……七海。こんなところで寝ては風邪を引く」


 聞き慣れた穏やかな声音に名を呼ばれ、少女はゆるゆると、地面に横たえていた身体を起こした。


「風邪って、もうそんな時間なの?」


 桜の樹の下で、直接眠ったからだろうか。

 悲鳴を上げる間接を、大きく動かす事で黙らせると、七海は口を開いた。


「あぁ。ご覧。辺りはすっかり黄昏れ時だ」

「……ふうん」


 お尻の土を勢いよく払う七海の動作に、ただでさえ短いチエックのスカートが揺れる。

 当たり前のように裾の乱れを気にしない彼女に、彼はわずかに眉をしかめて口を開いた。


「――七海」


「お尻が見える、でしょ。分かってるよ!」


 幾度も繰り返されて来た彼のセリフを先に奪うと、七海は小さく舌を出して、くるりとその場で回って見せた。


 同年代の少女達と比べ、幾分華奢な身体にまとった制服は、2年の月日を数え、今日でその役目を終えようとしている。

 着古した、という言葉が似合わない、まだどこか馴染まない雰囲気さえ醸し出す制服に包まれて、七海は寂しく笑った。


「知ってる? あの学校行くの、今日で最後だったんだよ」

「ああ」


 ともすれば途切れがちの会話。過(よぎ)る沈黙に、これまでは何の不安も感じる事は無かった。

 けれど――


「……ねぇ。この町を離れて、ずっと遠くに行きたい、って言ったら、桜花(おうか)はどう思う?」


 彼が浮かべる、普段と変わらない微笑みから逃げるように、眼の前の古桜に視線を移すと、七海はゆっくりと問い掛けた。

 
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