天空のその上で…
□君と紡いだ時間
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「どう思う、か。……そうだね、七海が決めた事なら、仕方ないね」
さらりと返された想像通りの言葉に、七海の右手が、無意識に握られる。
枝葉から下ろした視線は、今度は真っ直ぐに、同じ色を宿す瞳を捉えていた。
「何が仕方ないの? ずっと思ってた。桜花が返す答えは、いつも同じだよね。理由を聞いたり、反対された事なんて、ただの一度も無かった」
幼いころから、自分の身に何か問題が起これば、七海は真っ先に彼の下へ向かい、全てを打ち明けてきた。
信頼のおける相談相手でしかなかった彼に、明かせない想いを抱えるようになったのは、いったい、いつの頃からだろう。
「桜花の中には、私がここに残る選択肢は、ひとつも無いの?」
縋(すが)るような七海の声音に、わずかに小首を傾げたからだろうか。
空にふわりと遊ぶ、色素を失った彼の髪。
視界に映る、整い過ぎた顔立ちは、出会ったあの日と同じ、優しげな青年のままで。
しなやかな身体を大木の桜に預けた桜花は、正面から絡んだ七海の視線にたじろぐ事なく、穏やかな笑みを刻んだ。
「何故? 僕はいつだって、君の幸せを考えている。君が自ら出した答えなら、そこに間違いはない。……だろう?」
「じゃぁ私と二度と逢えなくなっても、桜花は平気なんだ?」
「それが七海の選んだ『答え』なら、仕方ないね」
「……」
迷いもなく、再び紡がれた言葉に。泣き出したい気持ちが、不覚にも膝に出たのだろう。
ガクガクと震える膝に流される痛いほどの視線を感じて、七海は小さく唇を噛んだ。
「どうした七海? 膝が――」
「っ! 震えてるんでしょ? 分かってるよ、いちいちそんな事言われなくても!」
身体の動きは解っても、その奥に秘めた心の震えが、彼には解らない。
恐らくは、弾かれたように出た七海の言葉の意味さえも、同じだ。
「どうしてっ! 何でいつも同じ言葉なの? 所詮あなたは、桜花は、人じゃないから
?」
変えようのない事実を前に、酷い言葉を投げつけている自覚は、ある。だが。
戸惑いを覗かせる顔も。小さな子供を宥めるような、優しい声も。
全てがただ、人の感情を模倣した結果だと、思いたくはなかった。