イナズマ
□伝えたくて、
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出会ったのはこの学園に入ってから。
でも、出会った頃からあなたはとてもかっこ良くて、凛々しくて、
俺の、あこがれでした。
「鬼道さーーーーーーーーーーーーん!お昼一緒に食べましょう!」
そういって、鬼道さんの方へと走っていく。
俺はいつも、鬼道さんと一緒にお昼を食べている。でも、源田とか成神とか辺見とか咲山とかがついてくるから、あまり2人で食べたりは出来ない。
でも、鬼道さんの隣はいつも俺がキープしているし、鬼道さんは俺とたくさん話してくれるから問題ない!
「鬼道さん、大好きです〜!」
「ありがとう、佐久間」
入学してから、何度も何度も繰り返すこの会話。
これは『敬愛』?それとも『恋愛』?
俺のはきっと、恋愛。
でも、そのことを鬼道さんに知られたら・・・・
きっと、今までのようには接してくれない、それが怖くて仕方ない。
だから、今はまだ、自分の気持ちを伝えられない。それは『逃げる』ということだ。
その日の部活が終わって、帰ろうとしたら鬼道さんに、「ちょっといいか?」と、聞かれた。嬉しくて「はい!」と即答。
しばらくして、他のメンバーが誰も居なくなった。
それまでずっと黙っていた鬼道さんが、急に口を開いて
「今度の日曜日、その・・・・、一緒に買い物に行かないか?」
と、俺に聞いてきた。いきなりだったから、かなり焦った。でも、それと同時に『嬉しさ』もこみ上げてきた。
鬼道さんから、俺を誘ってくれた_____!
嬉しくて、嬉しくて・・・・
こんなに喜ぶなんて、まるで俺は鬼道さんに『恋』してるみたいだなぁ、なんて・・・
「はい!是非!おともします!」
言い方が、ちょっとアレだったかもしれない・・・・
めったに大笑いしない鬼道さんが、大笑いしたから。
素直に、可愛いと思った。
「・・・・・じゃあ、詳しい事はまた今夜電話する」
それだけだったけど、夜も鬼道さんの声が聞けると思うと今から胸がドキドキしていて、その胸のドキドキは中々収まらなかった。
「(あぁあああああああああ幸せすぎるうううううう)」
そんな風に喜んでいる内に鬼道さんは、「すまん、俺は先に帰る」と言って帰ってしまった。まあ元々、一緒に帰る予定なんてなかったからいいし、それに今夜と日曜日の事を考えただけで、もうそれどころじゃなくなっていた。
その時__________
バタンッ!
ドアが開く音。誰か来たのだと思い、慌てて顔のゆるみを直す。こんな顔、源田ならまだしも、辺見や咲山達、ましてや成神なんかに見られたら最悪だ!と思ったから。
「・・・・・・佐久間?」
案の定、来たのは源田だった。
「何だ、源田か・・・・」
「何だって、酷いな・・・それより、佐久間!今度の・・・」
ほっと胸を撫で下ろし、また顔を緩める。源田からしたらいきなりの事だったから、すこしぎょっとした顔になってから「鬼道と何かあったのか?」と聞いてきた。源田には、よく相談にのってもらっていたからそう聞いてくるのも仕方がない。俺は緩めたままの顔で、
「日曜日、一緒に買い物に行こうって言われたんだよ!」
と、本当に嬉しさいっぱいの顔で言う。それを聞いた源田は、「・・・・・そうか、良かったな!」と言って、「俺は・・・、忘れ物取りにきただけだから、もう行くな!」なんて言って、さっさと帰ってしまった。いつもなら、最後まで嫌な顔ひとつしないで聞いてくれるのに、今日の源田は少し顔を歪ませていた。「変なの・・・」そう呟いて、俺も帰ろう、と言って、荷物をまとめて部室を出ようとした。と、その時・・・、自分の足下に何かが落ちているのが分かった。「ごみか・・・?」なんて思いながら広げてみると、それは1枚の紙だった。しかも、書いてある内容をよく見てみると、そこには『ペンギンショー』と書かれていた、源田が落としていったのかな?そう思って、届けようとした。しかし、日付を見てみると、それは今度の日曜日だった。
「あーあ、見たかった・・・・」
そう言って、その紙を源田に渡そうとしたとき、何かがひっかかった。
「(どうして源田は、こんな紙を落としたんだ・・・・・?)」
源田は、ペンギンには興味ないはずなんだけど・・・
「(そういえば、源田何か言いかけて・・・・・っ!今度の・・・・?)」
今度の日曜日、空いてるか?
源田は、そう聞こうとしていたんじゃ・・・ないんだろうか・・・?
お人好しの源田のことだ、俺と鬼道さんのことを聞いて遠慮したんだろう。
俺としては、鬼道さんと一緒に買い物に行きたい。でも、源田はいつもいつも俺の話を聞いてくれたし、いざという時はいつも助けてくれた。
そんな源田に、俺はまだ何も出来てないきがする・・・・
・・・・・持っていた紙をぐしゃりと握りしめ、勢い良くドアを開ける。向かう先は決まってる、大親友の『あいつ』の所。初めは少し急いでいる程度、どんどんその速度は上がっていく。駆け足、そして全力疾走。とにかく早く会いたい、伝えたい、
でも、いくら探しても『あいつ』は見つからない。
部屋も、グラウンドも、校舎も
みんな、みんな探した。でも、見つからない・・・
あげくの果てに、電話まで繋がらない。
どこに、居るんだ・・・・・?
伝えたいのに、伝えられない・・・
想いは膨らんでいくのに、それを伝えたいのに、伝える相手はいつまでたっても見当たらない。
「っ、はぁっ!何してるんだよ、俺・・・・」
“お前が好きなのは、誰なんだ?”
幾度も繰り返される、悪夢のような呪文。
昔の俺なら迷わずに、“鬼道さんだ”と、答えられた。
でも今は、よく分からない
心に、迷いがある。
「・・・・帰ろう・・・」
分からない、ぐちゃぐちゃのままの自分の心をそのままにして、俺は自室へ帰ろうとする。
その時ささやかれた
“また逃げるのか?”
たったそれだけの言葉。でも、俺には酷く残酷な言葉に聞こえた。鬼道さんへの想いに対して俺は逃げた。
“あいつへの、源田への想いからも逃げるのか?”
答えられない。違う、答えるのがつらい、怖い、怖い、怖い、怖い・・・・・・・
この気持ちを伝えたら、俺はきっと軽蔑されて、今までのままでは居られなくなるんじゃないのか?
それ以前に、俺は源田をどう思っているんだ・・・?
友達、じゃ・・・ないのか?だから、こんなに胸が苦しいのか?
違う、友達じゃ・・・・ない・・・
鬼道さんへの気持ちと同じような気持ち。
でも、鬼道さんへの気持ちよりは遥かに大きくて、俺の心にずぅんと響く。それだけで、もう答えは出ているはずなのに、方程式は解けているはずなのに、答えは出せない・・・
俺はきっと、ううん、絶対・・・・・
『あいつ』が、『源田』が、『好き』なんだ・・・・
勿論、初めは鬼道さんが好きだった。でも、相談を聞いてもらっているうちに源田のことが知らず知らずの間に好きになっていた、
そうなんだろう・・・・・
“分かっているのに、どうして伝えない?”
「っ、うるさいっ!」
“怖いのか?”
「そんな訳っ・・・・ない・・・」
“そうやって、逃げるのか?”
「っ・・・・・」
“・・・・・・お前には、幻滅したよ。俺はもう知らない、助けない、絶対にお前の言葉には耳を貸さないし、何も教えない。つまり、お前はこれから何があっても俺には頼れないということだ”
俺のなかの、もう一人の俺の言葉.
その言葉は、冷たく、深く、俺の胸に突き刺さる。
分かっていた、初めから全部
怖かった、伝えることが
それでも、今は伝えたい
「・・・・・・・・・伝え、なきゃ、駄目なんだ!」
ようやく吐き出せた、素直な気持ちで
一度は動かすことをやめたその足を、もう一度動かし始める。
今度は初めから全力疾走。行き先なんて決まってる!
もう一度、『あいつ』の元へ行くんだ!
さっきまでとはうってかわった、晴れ渡った顔。自分の気持ちを伝えることに、今はドキドキ、ワクワクしている。
言うんだ、『好き』って、伝えたいんだ!
「はぁっ・・・はぁっ・・・!源、田・・・!」
2人だけの、お気に入りの場所、そこに源田は居た。
「よく、ここだって分かったな!佐久間っ!」
にっこりと、作り笑顔でつらそうに笑う源田。やめろ、そんな顔は見たくない!
「っ・・・・源田、お前に、伝えたいことがある・・・」
勇気を出せ!そう何度も言い聞かせる、
「奇遇だな、俺も佐久間にいいたいことがある」
・・・・・源田も?何だろう___
「俺は、源田のことが「俺は佐久間が好きだ」
!?なっ!え!?
「っ!」
「鬼道のことが好きでも構わない、俺は佐久間に好きだと伝えたかった」
そんな、まさか!
源田が、俺のことが好きだったのか!?
「佐久間は、何を言いたかったんだ?鬼道のことか?」
違う!
「っ・・・違うっ!」
「・・・・・佐久間?」
「俺はっ・・・・・・・」
駄目だ、言えない・・・・・
“逃げるな、大丈夫だ”
もう、絶対に力を貸さないと言っていた、声。
何だ、やっぱりお前は甘いんだな
“うるさい!黙れ!今回限りだ!”
ありがとう・・・・
小さな声で呟く.当然の如くその声は誰にも聞こえない.
そして、閉じていた口を開く.
「俺は、源田が好きだ」
ずっと言えなかったその言葉、
「っ!?さ、佐久間は鬼道のことが好きなんじゃ・・!」
源田が驚くのも無理はない、
俺もさっきまでそう思っていたから。
「俺は、確かに鬼道さんが好きだった」
「だった______?」
「ああ。でも、源田、お前に話を聞いてもらっているうちに、俺はお前にひかれていたんだ」
「夢じゃ、ないのか・・・・?」
「・・・・・・もう絶対に言わないからな!俺はお前に惚れてるんだよ馬鹿野郎!」
「っ!佐久間!俺も愛してる!」
そこまで言ってないだよ、馬鹿!
「・・・・・なあ、源田・・・。俺、鬼道さんに自分の気持ち・・・・伝えてくるよ」
逃げない、絶対に.
「・・・・分かった.俺はここで佐久間のことを待っているから」
分かってくれる、これは俺の問題だから源田には何もしてほしくないから、ついてきてほしくなかったことを
何気ないけど、そんな気遣い、俺の心を分かってくれる・・・。そんなお前だからこそ、俺はお前に恋をした.
「あぁ。行ってくる!」
いつもよりも軽くなった足で精一杯走る.立ち止まらず、後ろを振り向かず、前だけを見て.
そして、鬼道さんの部屋につく.
コンコン、と軽くノックをして「入ります」と言う.
するとドアがあき、鬼道さんが出てくる.
「佐久間か・・・?こんな時間に、どうしたんだ?」
「・・・・・話が、あるんです」
そう言って、自分の気持ちを偽りなく鬼道さんに告げる.その間、鬼道さんは目をそらさず、しっかりと話を聞いてくれた.
話が終わると、つけていたゴーグルを外した.
普段は雲って見えていた瞳も、この日ははっきりと鮮やかに見えた.
その瞳は、俺だけを見据えてるようで
「俺は、お前が源田のことを好きだと言うことは分かっていた」
そう告げられたとき.その言葉に一瞬ドキリとしたけど、鬼道さんならきっと気付いていたんだろうな、と思い、やられたな.という顔をする.
何よりも、その偽りのない,迷いのない眼でそういわれたらもうそう思うしか他にはなかった.
俺は鬼道さんと一緒に笑い、そして泣き合った.
嬉しさと悲しさともやもやと、全ての感情が一度に混ざり合って、何だか変な感じだった
それから、鬼道さんは俺をまた見て、
「日曜日」と言う.
すっかり忘れていた事を思い出し、俺も慌てて「その!」と切り出す、でも鬼道さんは、俺の唇に指を当てて「日曜日は、源田とデートしてくれ」と耳元で囁いた.
そんな行動に思わず吃驚して、「わひゃぁっ!」と声を上げる.情けない声を上げてしまって、恥ずかしい・・・.
そんな俺を見て、鬼道さんは
『だいすきだ、いままでも、これからも』
声を出さずにそう言った.
そんな不意をつくような言い方に,俺は不覚にもどきりとしてしまって,それでもやっぱり俺は源田のことが好きだから・・・
『ありがとう、ございます!』
そう告げて,駆けていく.
振り返らずに,真っ直ぐに.
今度はもう,怖がらない.おびえない.
俺は走っていく.
大好きなあいつのところへ____________
Fin.