夢物語
□−それが運命
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護るもの−
決して高価ではないけれど、他の誰でもないあの人に贈られた簪は今、まるで大切なものを失った私のように、赤黒い罪が滴っていた。
それを見ても不思議と罪悪感は浮かんでは来ず、宝物を汚してしまったという嫌悪感しか抱かなかった。
立ち尽くしたまま、これからどうしようかとやけに冷静にぼんやりと考える私を、いつの間にか雨から雪にかわった世界が包む。
この静かな夜が明ければ、きっと私は今まで通りには生きられなくなる。
それを解っていても今でも後悔の念が微塵も湧かないのは、これが私の正しい答えだったからなのだろう。
例え御天道様を真っ直ぐに仰ぎ見れなくなっても、月が代わりに導いてくれる。私はこれからも何一つ変わらない。それを証明する為に自らを染めたのだ。