おはなし

□夕暮れの唄
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その女と出会ったのは怒号と慟哭が乱れとぶ焼け野が原だった。血をたれ流しただ死を待つ俺の前にそいつは白い獣と共に現れた。



「………へいけ?」
女の声に俺は臥せていた目を開けた。
そいつは白い獣にのっていて、降りもせず俺をじいっと見ていた。俺にはこいつが最近噂になっている女――“鬼の狗”だとすぐに解った。名に相応しく白い獣に乗り全身が綺麗な赤で染められていたからだ。


「お前、死ぬのか?」
女は感情を表さない声で言った。

「さあな…」
そうは言ったものの血は止まらず、寒気までもが身体中を駆け巡っていた。女のいう通り、俺はもうすぐ死ぬのだろう。


「恐いか?」


「…生憎、死んだことがないんでな」
経験してないことは解らない、と俺が呟くと女はそうかと僅かに微笑した。幼いながらに美しいと思い、無意識に口が開いていた。


「…名はなんという?」


「どうして?」
女は獣から降り、俺のすぐ脇にしゃがみこんで首をかしげた。


「聞きたくなった」
何故かは解らないがな。嘲笑すると女は俺の手をとって自分のに重ねた。暖かく、小さな手だった。
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