紫眼の薬師

□薬師の趣味
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──長閑だな〜。


あれから十数日経ち、傷もだいぶ癒えた佐助は、草が生え放題の庭に面した縁側に腰を掛けのんびり日向ぼっこをしながら此処での出来事を思い返す。

あの後、意識を失ってから三日も経っていたことを巴に聞かされ、城で己の安否を心配しているであろう主へ大烏を使い文を飛ばした。

すると半日もしない内に主からの文を持って帰ってきた大烏に、いつもこれくらい早く執務をしてくれたらな〜とぼやくと文を読む。
内容は簡潔に《傷が癒えるまで休みを取らせるからしっかり治して帰ってこい》という内容だった。

それをこのボロ小y…庵の主である巴に見せると二つ返事で了承してくれたので、療養も兼ねて居座っているのだ。


「はぁ〜、なんか長閑過ぎて俺様帰りたくなくなってきた…」


巴に煎れて貰ったどくだみ茶(体にいいからと無理矢理飲まされている)を啜りながらぼんやり呟いていると、自分も茶を煎れてきた(巴のはただの緑茶)巴が佐助の横に腰を降ろす。


「お主はいいかも知れんが、私は迷惑だ。傷が癒えたら早く帰れ」


隣に座った巴へ気付かれないように少しだけ距離を詰めた。
口調はきついが、なにかと世話を焼いてくれるこの紫眼の少女を気に入った佐助は事ある毎に触れようとする。
この強さの中に儚さを併せ持つ巴にとても興味を持ってしまったのだ。

それともう一つ……

(なぁ〜んか巴ちゃん見てるとほっとけないんだよね〜)


そんな事を考えながら、早く帰れと言わんばかりの巴の態度に態と脇腹の傷を押さえる。


「え〜?俺様まだ完治してないし。いたた〜!また脇腹の傷が痛み出したー」


急に痛み出したフリをしてうずくまり、巴に擦り寄る。

……本当は傷など殆ど完治していた。
巴の作る薬は効果が絶大で、薬学に長けていた才蔵ですらこんな効果のある薬を作ることは出来ないくらいだ。

だから帰ろうと思えば今すぐにでも帰れる。
しかし、そうしないのは彼女の薬学の才への興味と、このまま彼女をここへ置いておきたくないという己の心情から。


(折角貰った長期休暇だし今のところ戦もない。もし何かあったらここの場所は教えてあるから知らせが来るでしょ)


主の事は少なからず気になるが、安い給金で身を粉にして働いているのだから少しくらいは許して欲しい。

旦那ごめんね〜と心の中で謝りながら、今は巴と過ごす時を満喫するべく巴の肩を抱こうと彼女へと腕を伸ばした。


「ああ、そうだ。これをお前にやろう」


後少しで肩に触れるという時に巴はそう言って佐助から離れるように身を傾け、盆の上に置いていた薬包みを手に取る。


「ん?どうした?」

「い、いや…別に?(上手く避けられてるのか、天然なのか……)」


苦笑しながら巴から薬包みを受け取り匂を嗅いだが何もしない。

「これ何の薬?」

「ん?別に毒ではないぞ?」

「……………」


瞳をきらきらさせながらそう答える巴に佐助の第六感が警鐘を鳴らす。

いくら毒ではないにしろかなりヤバい薬であることは、彼女のここ数日の行動を把握した佐助にとって安易に想像できた。

巴は薬学の才はとても長けていて研究熱心なのだが、怪しげな薬を作るという変わった趣味があるようだ。
そしてこの数日、佐助は体に害は無いものの不思議な薬の被検体として度々訳の分からない薬を飲まされていた。

元々、薬に耐性のある佐助だが、巴の薬は何故かなんでもよく効くらしく、巴にとって恰好の被検体に成り得た。
しかし巴の作る薬はずば抜けて特異で、先日は若返りの薬というのを飲まされ半日赤子の姿で過ごさなければならなかったし、その前は体の大きさを変える薬とかで一寸まで体を縮められ危うく鳥に餌になるとこだった。


(あんな目に会ってるのに飲んじゃうんだけどね〜。だって断れないっしょ)


何故そんな仕打ちをされているにも関わらずまた薬を受け取ってしまうのは、自分が飲まなければ巴は自身を被検体するのでそれを阻止する為なのだ。


(でもこんな変な薬じゃなく、媚薬なら巴ちゃんに飲んで貰っても構わないんだけどな〜)


邪な事を考えつつ、薬包みを開いた佐助は固まった。


「ん?どうした?本当に毒ではないぞ?」

「………………巴ちゃん、本当にこの薬なに?こんな色の薬今まで見たことないんだけど?」
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