Vampire Knight

□Moon and Sun
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名前「黒主さん?着きましたよ。」

名前の言葉と歩みが止まった事に、埋めていた顔をあげる。

優姫は眼前の風景に心を奪われた。
木々や花々に囲まれた小さな泉。
そしてその泉には、優姫が見とれていた星と月がキラキラと光っていた。
あまりの美しさに優姫は声を出す事も忘れていた。

名前「お気に召しましたか?」

そんな優姫の顔を覗き込みながら名前は声をかける。
そしてゆっくり優姫を泉の側へ下ろした。

優姫(「あわわっ!私、何て大胆な事をっ!」)

意識が風景から名前に戻り、優姫は再び顔を赤くする。

優姫(「私…苗字センパイに抱きついちゃったんだ…
どうしよう〜、苗字センパイの顔見れないよぉ〜!」)

優姫は赤くなった顔を両手で包みながら、おろおろする。

そんな優姫の狼狽ぶりをくすりと笑うと名前は自分も優姫の隣に長い脚を投げ出して座った。

名前「本当に今日はいい夜ですね…」

月を見ながら小さく呟く。
静かなその声に優姫も落ち着きを取り戻し、同じく月を見上げて答える。

優姫「…はい。」



どれだけの間そうしていただろうか。
二人の間に会話はない。
ただ二人並んで月を見上げていた。

不意に優姫が名前に小首を傾げて問いかける。

優姫「苗字センパイ?ここはどこなんですか?」

その問いかけに月に向けていた視線を優姫に移す。
月の光に照らされてきらきらと輝く黒曜石の瞳は美しかった。

名前「ここは月の寮の裏手ですよ。
私も散歩をしている時に偶然見つけまして…
私の秘密の場所です。
あ、でも黒主さんとの秘密の場所、になりましたね。」

この人は自分の顔と自分の言動を分かってこんな事を言っているのか…
これでは心臓がいくらあっても足らないと優姫は思う。


名前「…なら私も一つ質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」

名前を包む空気が少し変わった事に気付かず、優姫は明るく答える。

優姫「はいっ!大丈夫ですよ!」

名前の眼が細められる。


名前「貴女は……ヴァンパイアが恐ろしくはないのですか?」

予想外の質問、そしてずっと名前が浮かべていた微笑みが消えている事に優姫は驚く。

優姫「えっ?えっと……」

口ごもる優姫に名前はにじり寄り、その距離を縮める。


名前「私達ヴァンパイアにとって、貴女方人間は餌(え)に過ぎないのですよ。」

そう言うと、名前の黒い瞳が妖しい紅に染まる。
それは吸血衝動を表していた。
そして名前は優姫の身体を掻き抱くと、優姫の首元に顔を近付けるとそっと耳元で囁く。

名前「私は…今ここで貴女を喰らう事もできる…」

その名前の表情は妖艶であり、蠢惑的だった。
紅く光る瞳が、耳元で囁く声が、名前の甘い香りが身体中に麻酔のように拡がっていく。
優姫はいきなりの事に動く事ができない。
しかし驚きに見開かれた眼を優姫は静かに閉じた。



優姫「苗字センパイは…そんな事しません。」



優姫の、声は小さいが力強い一言に、紅に染まり、妖しく細められていた名前の瞳が見開かれ、その色は一瞬もとの黒曜に戻る。

名前「……私はヴァンパイアですよ。
ヴァンパイアとは欲求に忠実な生き物。
貴女のその自信には根拠がありません。」

優姫「根拠なら、あります!」

またもや優姫はきっぱりと言い切る。

優姫「苗字センパイは私を助けてくれました!
それにずっと抱きしめてくれましたし…
ここにも連れてきてくれましたっ!

…私、まだ苗字センパイの事、少ししか知らないけど…
センパイはそんな事しませんっ!!」

明るい笑顔で吸血衝動に染まった顔を見て言い切る優姫に今度は名前が固まった。
そして、はぁっと溜息をつくと今度こそ、その瞳を完全に黒曜に戻す。


名前「…貴女には負けましたよ。」

そう言って優姫に向ける笑みは困ったような優しい笑みだった。
その笑みに優姫は、やっぱり、とでも言うような明るい笑みで返す。


名前「…でも先程の事、全てが嘘でもないのですよ?
貴女はこの学園でナイトクラスの秘密を知っている数少ない<人間>です。
この学園のヴァンパイアは枢がよく教育していますから…比較的安全と言えますが…
この学園の外のヴァンパイアではそうはいかない…。

ヴァンパイアの存在を知っている貴女には…貴女にだけは…
ヴァンパイアが危険な生き物であるという事を、忘れないでいてほしかったのです。

…とは言え、手荒な事をしてしまい、申し訳ありません。
怖かったでしょう?」


真剣な顔から一変、優姫に問いかける名前は形のよい眉をハの字にし、申し訳なさそうに微笑む。


優姫「やっぱり、苗字センパイは優しいですっ!」

そう自分に笑いかける優姫に名前は枢が優姫を目にかけている理由の一つが分かったような気がした。



名前「優姫…、とても良いお名前ですね…
貴女にぴったりだ…。
私も…優姫さん、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

名前を褒められた事に照れていたが、名前の申し出に元気よく、「はいっ!」と答える。

優姫「あ、じゃあ、あの…私も名前センパイって呼んでもいいですか?」

名前は優姫ににっこり微笑みかける。

名前「名前、でもよいのですよ?」

名前のその言葉に一気に顔を真っ赤にする優姫。

予想通りのその反応に名前は口元に手を当て、くすりと微笑むと自分の着ていた上着を優姫にかける。

名前の甘い香りに包まれた事に目を丸くする優姫。

名前「もう月があんなに高い。
さぁ、そろそろ帰りましょう。
陽の寮までお送りしましょう。」

そう言うと、優姫の手を優しく引きながら陽の寮へと向かう。
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