Vampire Knight

□夏の思い出
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「どうして、貴女がここにいるんです…?」



話は一月前に遡る。

月の寮―
夏休み1週間前という事もあり、それぞれ夏をどう過ごすかを話していた。

従兄弟同士の英と暁は夏も一緒に過ごす事が多い。
それに加え、枢も元老院から逃げるため、藍堂の家で長期休暇を過ごす。
枢が行くなら、僕も私もと、拓麻と瑠佳も便乗する。
行かないのは仕事があるため、あまり遠出できない千里と莉磨だ。
大体長期休暇の際はこのメンバーなので、特に新鮮味のようなものもない。

拓「そう言えばさぁ、名前はどうするの?」

拓麻の言葉に一同の視線は話題を振られた名前に集中する。
学園入学からの付き合いとは言え、休暇の際は一緒に来ないかといつも誘いはかけているのだ。
しかし名前の答えはいつもNo。
休みの間、彼が何をしているのかは誰も知らない。
貴族にはそれぞれ事情があるし、それでなくとも彼の家はヴァンパイア社会でも少し特殊な家だ。
今までは特に問いただす事も気にする事もなかったが…
こうもいつも来ないとなれば、やはり興味は湧く。
皆が彼の答えをシンと静まって待った。

名前「どう、と言われましても…。
特に皆さんにお話しできるような大した事はしていないのですが…。」

名前は一同の注目に困ったような表情を浮かべる。

英「じ、じゃあっ!!名前様も僕の別荘、来ませんかっ!?」

目をキラキラさせ、前のめりになりながら英は名前に問いかける。

そんな英に名前は申し訳なさそうに困った笑みを浮かべながら言う。

「…藍堂君、申し訳ありません。急な呼び出しがかかる事もありますから…あまりここを離れられないのです。」

英「…そうですか……」

しゅんとする英にぺこんと垂れた耳と尻尾が見えたのは自分だけではないと名前は思う。

名前「…そうですね。また時間ができそうなら私もそちらに伺ってもよろしいでしょうか?」

首をかしげながらそう尋ねる名前に英の垂れていた耳と尻尾がピンと上を向く。

英「はいっ!!勿論ですっ!!!」

そうして心底嬉しそうにしている英に名前は心の中で謝る。
名前が藍堂の別荘に行く事はないからだ。


全ての純血種に仕えるのが苗字家の使命である。しかし実際、学園で最も身近にいるのが枢。
時たま、他の純血種から呼び出しをくらう事もあるが、枢と過ごす時間が圧倒的に長い。
だからこそ長期休暇まで一緒にいる事はできない。

また英に言ったように、いつ純血の君から呼ばれるか分からない。だとすれば、すぐに連絡が取れ、すぐに動ける場所にいなければならない。
これが名前が長期休暇に同行しない理由だった。


そして月の寮が閉寮し、夏の長期休暇が始まう。
皆がリムジンで各々の家や別荘に向かう中、名前は一人歩いて街へと向かった。


別に家族と仲が悪い訳ではない。
ただ居辛いというのも確かだ。使命でガチガチに固められたあの実家はどうも堅苦しい。
そういった感情を家族には絶対に見せないため、いつも実家に顔を見せるように山のような催促状が家から届くのだが…
だからこそ仕事を理由に彼は長期休暇は街で一人暮らしをしているのだ。


名前が着いたのは黒主学園近郊の街にある小さな家。特に華やかでもなく、ごくごく普通の家だ。しかし幾ら普通の家でも学生の一人暮らし用には豪華で、彼のポケットマネーで買ったとなれば流石貴族と言った感じである。

名前はポケットからキーを取りだし、家に入った。
半月振りに使うため、普段はメイドに任せている掃除や買い出しなどを全部自分でこなした。
彼は意外にこういった家事が好きである。

名前「ふぅ…。やっと、落ち着きましたね。やはり、一人というのもいいものです。」

普段は寮に暮らしているため、一人の時間は貴重であり、彼にとって長期休暇の際の悠々自適な一人暮らしはちょっとした楽しみでもあった。

その時…

ぴんぽーん…

嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
寮での会話でわかるように一人暮らしをしている事を知る人間はいない。だからこの家を訪ねてくる人などいる筈がない。

はぁ…

一息溜息をつくと玄関の扉を開ける。

そして冒頭に戻る。

名前「どうして、貴女がここにいるんです…?」
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