Vampire Knight

□Moon and Sun
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「うんっ!今日も夜歩きさんはいないねっ!!」

風紀委員の業務として、夜間の見回りをしていた黒主優姫。
今夜も異常がない事に一先ず安堵し、校舎の屋上で伸びをする。
伸びをした弾みで視線が上がる。
目に飛び込んできたのは一面の星空とその中にぽっかり浮かんだ満月。
いつも見回りの時に見ているが、意識してそれらを見るとその美しさに吸い込まれそうになる。

「もう少し…見てから帰ろうかな!」

そう言うや否や、屋上の床をタンっと蹴り、樹に飛び移る。

勉強の方は残念な優姫だが、運動神経に関しては自信がある。
だからこそ過酷な風紀委員業務もこなせるのだ。

しかし…上空に気を取られすぎていたのか、もしくはいつも出来ている事だからと気を抜きすぎていたのか。

樹の枝に着地する筈だった優姫の脚はその枝を掠めただけ。
突然のアクシデントに大きく見開かれた優姫の眼には、それでも美しい満天の星空が映っていた。

一瞬何が起こったのか把握できなかったが、視界が逆転している事、星空がどんどん遠くなっていっている事に状況を把握し、青ざめる優姫。

校舎から飛び移れる程の高さの樹だ。
落ちたらケガではすまないかもしれない。
あまりの恐怖に喉は渇き、声は震えて出せない。
優姫はぎゅっと眼をつぶり、声にならない声で叫んだ。

優姫(「枢センパイっ!!零っ!!!!!」)




トンっ!

自分の体の落下が止まった事にびくっとする優姫。
しかし予期していた痛みは襲ってこない…
あまりの痛みで、痛みすらも感じないのか。
優姫は恐る恐る、ぎゅっと閉じていた眼を開く。

その瞳に映ったのは満天の星空ではなく、漆黒だった。
優姫は深い黒曜石の輝きに見入る。
そして徐々に自分の状況を確認していく。
眼の前には漆黒の瞳にすっと整った鼻筋、薄い唇に白い肌。
そして自分の体は落下は止まったものの、少しの浮遊感。


「…お怪我は御座いませんか?黒主さん。」


心地よい低音に、見入っていた優姫ははっと我に帰る。

優姫「っ!あっ!ぇえとっ!!あ、ありがとうございますっ!!!苗字センパイっ!!!」


優姫はナイトクラス生の中でも名前とはあまり言葉を交わした事がなかった。
お互いに枢を通しての顔見知り、と言った程度の関係だ。
そんな名前に助けられた事、そして名前の端正な顔がキスできるくらい近くにある事に優姫は顔を真っ赤にする。
それに対し、名前は優姫を横抱きにしたままの体勢で顔を赤くする優姫を見、くすくす笑う。

優姫はそんな名前に口を尖らす。

優姫「うぅ…、そんなに笑わないでくださいっ!!!」

それでもその顔は未だ真っ赤で…
名前はそんな優姫が可愛いらしく思う。

名前「くすっ…あぁ、これは失礼しました。
でも驚きました。図書室で本を読んでいたら女の子が落ちてきたのですから…」

そう言ってにっこり笑う名前。

優姫は図書室のある方向に目を向けた。
図書室から自分が落下したポイントは少し距離がある。
自分が落ちているのを確認し、そこから動き出して救助に間に合うなんて…
改めてヴァンパイアの運動能力の高さを感じた。

そして校舎に目をやった事で優姫はふと気付く。
そうだ、この時間は夜間部は授業中の筈だ。

優姫(「アレ?でも、じゃあ何で苗字センパイ、図書室に?」)

優姫「苗字センパイ、授業は…?」


優姫の問いかけに名前は悪戯っぽく微笑む。

名前「いわゆる…サボり、というやつでしょうか?」

その微笑みが綺麗で、小首を傾げる仕草が男性なのに可愛らしくて…
風紀委員として注意しなければならないのに、何故か言葉が出ない。

名前「秘密に、して下さいね?」

そう言ってSh..と人差し指を自分の口元に持っていく姿は妖艶さも醸し出している。
再び優姫は顔を真っ赤にすると、首を勢いよく縦にぶんぶん振って肯定の意を示す。
それを確認すると、名前は満面の笑みを浮かべる。

名前「有難う御座います、黒主さん」

そして名前は横抱きにしていた優姫をゆっくりと芝生に下ろす。

しかし…

ぱたんっ…

優姫の脚は地面を踏む事なく、優姫は力なく地面に座り込んだ。
優姫は自分の体なのに、自分に何が起こったのか分からない。

優姫「あれっ…?おかしいな…」

そう言うと、地面から立ち上がろうとする。
その際、差し伸べられた名前の手を掴み、立ちあがったのだが…
その手を離すと同時にまた脚の力が抜け、身体が崩れ落ちる。
その瞬間、名前が身体を滑り込ませ、優姫の細い体を抱きとめた。

名前「大丈夫ですか?黒主さん?」

安心させるような優しい声で語りかける。

その言葉に、抱きとめられた事で名前の胸辺りに置かれた優姫の手がカタカタと震え始める。
最初は名前との事で余裕がなかったが、助かったという安堵感が今になって出てきたのだろう。
優姫は全身に力が入らず、ただ名前にすがって震えていた。
そんな優姫を抱きとめながら、名前はあやすようにその頭を優しく撫でていた。

そして名前は再び優姫を横抱きにすると、歩き始めた。
その事に優姫は一瞬ぴくりと肩を震わせただが、そのまま大人しく名前の胸に頭を埋めていた。
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