Vampire Knight

□秘め恋
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「その調子ですよ、優姫さん。」

音楽に合わせて踊る黒主優姫と苗字名前。
優姫は純血種に戻り、玖蘭邸に住むようになってから生活は一変した。
家から一歩も出ない今も、細いピンヒールに膝までの清楚なワンピースを着ている。
今も…


ギュっ



優姫「すみませんっ!!!大丈夫ですかっ?名前センパイっ!?」


ペアとして練習に付き合ってくれていた名前の脚を思いっきり踏んでしまった。


優姫は枢の不在中、勉強は英に、マナーや一般常識などは名前にレクチャーしてもらっている。
そして今は名前の社交ダンスのレッスン中だったのだが…

運動神経はいい筈なのだが…
何度練習してもダンスだけはなかなか思ったように上達しない。
一応舞踏祭などもあるので、簡単なワルツなどはできるのだがヴァンパイアの夜会ともなればダンスのジャンルも増える。
それぞれダンスによってテンポも違うので、すぐに間違えてしまうのだ。

そして名前の脚を踏んでしまう事もしょっちゅう…
その度に踏んでしまう事に対しても、教えてもらっているのになかなか上達しない事に関しても申し訳なくて名前に謝る。


そんな優姫に名前は決まって、微笑む。


名前「大丈夫ですよ、気にしないで下さい、優姫さん。
失敗は誰しもが通る道ですから。」


その笑顔に優姫はまた気まずくなる。
そんな優姫を見越したかのように名前は人差し指を立ててにっこり笑う。


名前「…それより、失敗したとしても謝らない事、ダンスを中断しない事、ですよ。
どんなハプニングがあったとしても毅然としていれば周りは意外と気付かないものです。」


全てにおいて完璧な名前の意外な言葉に優姫は眼を丸くする。


優姫「…名前センパイも失敗なんて、する事があるんですか?」


名前「勿論ですよ。
その話を始めれば長くなってしまいますね…。
今日はかなり練習しましたし…
そろそろお茶にしましょうか?」


そう言うと優姫に汗をふくためのタオルを手渡し、自分はお茶の準備に取り掛かる。


優姫(「センパイは汗かくどころか、息もあがってない…
やっぱり凄いなぁ…」)

優姫は名前は見つめながら心の中で感嘆する。



この玖蘭邸に移り住んでから、極端に人に会う事が減った。
特に最初は親友の頼ちゃんにも会えない事が寂しくてたまらかったが…
最近ではその寂しさが埋まっているのを感じる……。
その理由は…。



名前「優姫さん?お茶が入りましたよ?」


こっちを向いてにっこり笑う名前。
全ては彼のおかげだ。
この屋敷に常駐しているのは英と名前の二人だけ。
枢は何やら忙しいらしく、あまり会う事はない。
そんな中でいつも自分を気遣ってくれる名前。
そんな彼に安心感とは別の感情が芽生え始めている事を優姫は感じていた。



名前「今日は優姫さんのお好きなアールグレイとチョコレートプディングをご用意しましたよ。」



優しく微笑みながら、カップに紅茶を注いでくれる。
優姫はこの時間が何より好きだった。
そう、兄であり婚約者である枢と過ごす時間よりも…
優姫は眼を閉じて、紅茶の香りを楽しみながらそっと呟く。



優姫「…私、名前さんの淹れる紅茶…優しい味がするから大好きです…」



優姫は眼を閉じていたため、名前の表情が優姫の言葉に一瞬悲しげなものになった事に気がつかなかった。




―名前side


学園での騒動が一段落し…自分は枢と運命を共にする事を決断した。
それは苗字としての決断ではなく、名前としての決断だった。


本来ならば自分は軽率な行動はできない身分である。

しかし…愛する妹を守ろうとする孤独な王の瞳に…そして覚醒したばかりの無力な姫の瞳に…この2人を守りたいと思った。
だからこそ…再三の更の便りを無視してまでこちら側についた。

名前の想定していた最悪の決断、枢か更を選ばなければいけない瞬間だった。


だからこそ今でも更の事を思い出す度に胸が痛む。
彼女は…一人で大丈夫だろうか?
しかしこちら側を選択した自分に、彼女を心配する権利はない。


それより…自分の仕事はこの幼い純血種の姫を一人前の淑女に磨き上げる事だ。
それは枢の名前への信頼の表れでもあるのだから…




優姫「どうしたんですか、名前センパイ?
眉間に皺寄っちゃってますよ?」


そう言って自分の額をツンツンと差す優姫。
そんな優姫を安心させるように、名前は笑みを浮かべる。


名前「何でもありませんよ、優姫さん。」



優姫「あ、そう言えばさっきの話、聞かせて下さいっ!!」


名前「さっきの話?」


首を傾げる名前に優姫は頬を膨らます。


優姫「センパイの失敗の話です!」
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