今日は晴天なり
□満月の出会い
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「……ふぅ」
忍達を切り倒した式は刀を鞘に戻し、軽く息を吐く。
「…流石は夜叉姫…見事」
「どうも」
壁に背を預けた男の言葉に適当に答えると部屋を片付けなくちゃと小さく愚痴る。
「ッ!式ッ」
「えッ」
叫ぶと同時に式を突き飛ばした男の頬をクナイが掠める。
男が手裏剣を投げると隠れていた忍がどさりと倒れた。
気付かなかった。まだ一人残ってたなんて…
突き飛ばされた勢いで倒れたまま式は呆然と倒れた忍を見る。
「…すまぬ。立てるか?」
「あ、ありがとう」
式の前に膝を付き、手を差し出す男に手を伸ばした。
しかし、あることに気付いた式はその手には触れず、片腕を付いて身体を起こし、少し破れた口布越しに男の頬に触れた。
「…式姫?」
「血が出てる…手当を」
「…いらぬ」
「駄目。私のせいで怪我したんだから」
起き上がって部屋にある小箱から布と薬を取り出し男の前に座る。
あッ、口布どうしよう…
目の前の男は忍なのだ。当然人に素顔を晒すのは嫌だろう。
「えっと、あの…口布…」
「…ああ」
式の不安をよそに男は口布に指を掛けあっさりと外した。
忍がそれで良いわけ?と思いながら式は男の顔に目を向けた。
「ッ…!」
「…式姫?」
固まっていると怪訝な顔をした男に菜を呼ばれ、ビクリと肩を震わせる。
「く、薬塗るから沁みたら言って//」
「……?」
口布をしていたときから少し見えていた右目と鼻にある傷が気にならないほど精悍な顔に思わず見惚れてしまった。
式は一度深呼吸して早くなった鼓動を押さえ、布で止血した傷に薬を塗る。
「そんなに深くないし跡も残らなそうね」
「…残ろうともかまわぬ」
赤く染まった顔を隠すために血の付いた布を畳みながら言うが、男の物言いは端的なためすぐに会話は途切れてしまう。
自分の鼓動が大きく聞こえそうで沈黙が辛い。
「さっき助けられて思ったんだけどあなたほどの実力なら天井から落ちてくるなんてあり得ないんじゃないの?」
「…板に亀裂が入っていたらしい」
「亀裂…ああ。ひと月ほど前の夜、寝てたら天井が鳴ったから曲者かと思って槍で突いたのよ。直すの忘れてたわ」
「……あの時か」
「そう。……『あの時』?」
「……なんでもない」
「…まさか「式!何事だ!?」へ?」
男の発言に嫌な予感がし、問い詰めようとした瞬間、部屋に現れた城主と家臣達に式は固める。
「父上。何故此処に?」
「先ほど曲者だと叫び声が聞こえたから駆け付けたんだ」
「……にしてはずいぶん遅い到着で…」
式がもう全部終わったわと言うと城主はそれはすまなかったと苦笑する。
「こちらの方が助けてくれたわ」
式は城主と家臣が入って来た瞬間素早く口布を戻した男に微笑みかける。
それを見て目を伏せた男に城主は驚いたように声を上げた。
「これはこれは半蔵様。娘を助けていただき真感謝いたします」
「…謝辞無用」
「あら、父上の知り合いだと言うのは本当だったのね」
「式、失礼だぞ。この方は徳川様の忠臣・服部半蔵様だ」
「と、徳川様の!?」
式は驚き目を見開いた。
この国は徳川の従属国。
すなわちその家臣である半蔵は式やその父より身分が高い。
「もうしわけございません。そうとは知らずご無礼を…」
「…かまわぬ」
「ですが…」
半蔵は困惑した表情の式の手に触れた。
「…先ほどまでの一切飾らぬ式姫が良い」
じっと己を見つめる半蔵に困り切っていた式だったが諦めそうもないと感じ折れた。
「…わかったわ。半蔵様」
「…応。式姫、手当謝す」
恥ずかしそうにほほ笑む式と目を細める半蔵を見て城主は腕を組み何やら考え込む。
「ふむ……半蔵様。もしよければうちのじゃじゃ馬を貰ってくださいませぬか?」
「はあッ!?何言ってるのよ!」
式は顔を赤くしながら城主を睨んだ。
「半蔵様も何とか言って!」
「……式姫さえよければ」
「なッ……!」
半蔵の言葉に式は赤い顔を更に赤くする。
ええッ、いや、待つのよ私。なんかいろいろありすぎて混乱してるからまず一度冷静に考えなくちゃ…
「あッ、さっき言いかけたことなんだけど、ひと月前天井からした音って半蔵様よね?」
「……違うと言えば嘘になる」
「覗きが趣味っていうのは夫としてどうかと…」
「…覗きではなく見守っていただけだ」
「世間ではそれを覗きって言うのよ」
「……百歩譲ってそうだとしても式姫以外にはやらぬ」
いや、そんな真剣な目で言われても…
私一人が標的っていうのもそれはそれで怖いわ。
とりあえず一カ月考えさせてください
…また来る
ええ
(容姿も素敵だし優しいところもあるけど、ちょっと性格に問題が…)
ちょ、ちょっと待って
半蔵様、なんで私の枕持って行こうとしてるのかしら?
…記念に
だからなんの記念なのよ!