今日は晴天なり

□秋の夜
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蒸発しそうな暑さが過ぎ去り、過ごしやすくなった今日この頃。

特にこれといって仕事がなく、式は詰め所で同僚達とのんびり話をしていた。


「お前最近猫飼ったんだって?」

「うん、頭領に頼んだら許可してくれたんだ〜」

「神社に会いに行ってた猫だろ?遂に式にも男が出来たかって話していたのになぁ…ホントお前って華がないな」

「アハハ、水臭いなぁ…そんな遠回しに言わないで死にたいならそう言ってよ〜刺殺と撲殺どっちがいい?」

「すいませんごめんなさいもう言いません」

「…何にも聴こえないなぁ」


式は笑いながら苦無を取りだし、ジリジリと辰吉に迫る。


「お、落ち着けよ;な?頼むから許してください!」

「式、辰吉もここまで言ってるんだし許してやれよ;」


土下座する辰吉と笑顔の式の間に同僚の禅丸が入り、式を説得する。


「……次は無いからね?あ〜あ、どうすんの?この何とも言えない場の空気。…よし、辰吉、罰としてなんか面白い話して」

「なんというムチャ振り!?……えーっと、お前ら城下町の東に古い屋敷が有るの知ってるか?」

「古い屋敷?ああ、たしか頭領の屋敷の近くにそんなのあったっけ」


ぼろぼろの屋敷でなんで早く取り壊さないのかな〜って思ってたんだよね。


「あの屋敷は“壊さない”んじゃなくて“壊せない”んだよ」

「…なんで?」


なんか嫌な予感してきた…


「実は昔、あの屋敷で働いていた女中が強盗に切り殺されて、井戸に投げ捨てられたらしいんだ。それから夜になると、井戸からバシャバシャとまるでそこに人がいるような音が聞こえてくるようになって、恐ろしくなった家主は井戸に蓋をしてお札を貼っておいたんだ。」

「へ、へえ…じゃあ心配ないね」

「しかし、夜になるとガリガリガリガリとその蓋を引っ掻くような音が聞こえてきたんだって。それでとうとう家主は屋敷を手放したんだ。それから屋敷が古くなり、何度も取り壊そうとしたんだが、そのたびに不可解な事故が起こった。だからあの屋敷は今も壊されずにあの場所に残っている。井戸と共に…」

「で、でもお札で封印してあるなら問題なしだよ」


さっきまで明るかった部屋が心なしか薄暗くなっているような…


「それがな…三日前から門番が一人休んでるだろ?聞いた話じゃその前の晩、三人は酔った勢いでその屋敷に行ったんだって。んでそこにあった井戸のお札をふざけて剥がしたらしい」


何やらかしてんだよその馬鹿どもは!?


「その日の夜、その中の一人が寝ていると外からズルズルズル…という音がして、なんだろうと思って外を覗いたら、そこにはびしょ濡れの女が!!!」

「「「Σぎゃああああああ!!」」」

「チェストーーーー!!」


突然大声を出した辰吉に驚き叫び声を上げる忍達。某博打好きのような声を上げ辰吉の腹に拳を叩き込む式。


「ぐはぁ!!式…な、なに…を…」

「確かに空気を変えろとは言ったけど誰が怪談話しろって言ったー!余計冷えてるじゃん!てかもう秋だし!!怪談は夏だろうがーーーーーー!!!」


式は辰吉の胸倉を掴みながら前後にガクガクと揺する。


「や、やめて……」

「式、それ以上は辰吉が死ぬぞ!?」

「チッ」


式が舌打ちと共に辰吉を解放すると、辰吉は涙目になりながらニヤリと笑った。


「ゲホゲホッ…式、お前もしかしてビビってるんじゃないか?」

「はあ!?そんなわけないじゃん!そんな子供だましで忍がビビるわけないし!!」

「んなこと言ってると今夜お前んとこに来るかも知れないぞ。それにさっき皆叫んでたじゃないか!こいつらは童以下だっていうのかよ!?」

「こいつらと私を一緒にすんな!それとこいつらはミジンコ以下だ!!」


ぎゃーぎゃーと言い合いをする式と辰吉。


「…お前ら両方酷いな……」


そんな二人を禅丸とその他の同僚たちは離れたところから見守っていた。
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