今日は晴天なり
□篝火草
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「何故我が……」
「何ぶつぶつ言ってやがるんだ?魚が逃げちまうだろ」
式と我が入れ替わったあの一件からというもの氏康は釣りに行くたび我を護衛と称して(強制的に)連れていく。
「きゃー、虫気持ち悪い!小太郎、代わりに付けて!」
「知らぬ」
今日は甲斐も共に居るせいでいつも以上に喧しい。
…こ奴が居るならば我が帰っても問題ないのではなかろうか?
そう思い、持っていた竿をその場に置き立ち上がる。
「小太郎、引いてる引いてる!」
「うぬが釣れ」
「おい風魔。自分で釣ったやつ以外は持って帰らせねえぞ?」
氏康の言葉を聞き、籠の中の魚を見る。
三匹…式と喰うには少ないな……
仕方なく元の位置に腰を下ろし竿を握る。
「……雑魚か」
「それでさあ、その後恋人とはどうなの?」
「うぬには関係ない」
こ奴は近頃こればかり聞いてくる。答えたことはないが…
「あ、噂をすれば。ちょっと、小太郎。あれあんたの恋人じゃない?」
その言葉に甲斐の視線を追えば、相変わらず鬼灯の羽織に菖蒲色の袴姿の式が道を歩いていた。
「髪短いし袴履いてるぞ。男じゃねえのか?」
「う〜ん……いえ、あの顔は女ですよ。一緒に誰か歩いてますね。小太郎、あれ誰?」
「………」
誰だあれは……、我は知らぬ。
「お館様、あの人髪金色!南蛮人!?でも和服着てる…」
「ほお、珍しいな」
氏康と甲斐の会話が全く頭に入らず音だけが通り過ぎる。
射抜くような視線で式の隣を歩く男を見れば、視線に気づいたのか男が此方を見て、式に何かを言う。
我が立ち上がるとほぼ同時に式が驚いたように此方を向き、男に何かを言うと小走りで此方に向かってきた。
我も氏康達から離れ、式の元へ向かう。
「今日は、風魔さん。釣りですか?」
「氏康に無理やり付き合わされただけだ」
「氏康って…あそこにいるの北条様ですか!?うわ、どうしよう;」
笑顔で近寄ってきた式が少し離れた位置に居る氏康と甲斐に気付き、焦ったように我を見上げる。
「ほうっておけ。式、あれは…」
「式」
あれは誰だと聞こうとした瞬間、腕を組んで此方を見ていた男が式の名を呼んだ。
「はい!なんですか?」
「行くぞ」
「ええッ、そんな急に…;すいません、もう行かないと。また家に来てくださいね。あ、でも三日ほど出かけるので……」
それでは、と言い式は男の元へ向かった。
……気に入らぬ。
式を目で追い、歩き出した男を睨みつけると、男は我を一瞥しニヤリと笑った。
こめかみにピキリと青筋が浮かぶ。
「うわ〜、お館様。三角関係ですよあれ」
「だな、おもしれえ」
ニヤニヤ笑う氏康と甲斐を睨みつけ、姿を消した。