今日は晴天なり
□満月の出会い
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空に浮かぶ満月に照らされた城。
その一室の窓から月を眺める一人の女。
この城の姫・式は窓に寄りかかりながら物思いに耽っていた。
「ハァ………月餅食べたい…」
月見てたら食欲が……でももう夜だし食べたら太るわ。それに多分無いだろうし…
そう呟くと静かに窓を閉めようと手を掛ける。
ガタンッ
突然天井からした音に動きを止め、視線をそちらにやると、その瞬間天井板が外れ黒い物体が落下した。
「ッ、忍?」
傍に置いた刀を取り、いつでも抜刀できるように構える。
私としたことが侵入者に気付かないなんて…
でも天井から落ちるような間抜けなら城の者を呼ぶまでもないわね。
地面に着地した紺の装束姿の忍が式の存在に気付き膝を付いた状態で鎖鎌を構える。
が、式の姿を見ると構えを解いた。
「なんのつもり?あなた侵入者でしょう。女だって嘗めてたら遠慮なく叩っ切るわよ」
「……式姫か」
「私を知ってるの?」
「…幾度か戦場でまみえた」
男の言葉に式は戦場で対峙した忍の記憶を辿るがこれといって思い当たるものがない。
「あなたに会った覚えはないんだけど…」
「…影から見ていた故姿を見せるのは初めてだ」
…え?堂々と覗き宣言された?
いやいや、きっと任務とかで見張ってただけよね;
一瞬嫌な思考が頭を駆け巡ったがそれを振り払う。
ちなみに男が今立っている場所は式の布団の上。
「ねえ、そこから退いてくれない?あなたが土足で踏んでるの私の布団なんだけど…」
「式姫の……」
小さく呟いた男はちらりと己が踏んだ布団を見た。
そして首を動かし枕を見ると何故かそれに手を伸ばす。
「ちょっと、何してんのよ」
「…記念に」
「何の!?」
式が刀を鞘から少し抜き威嚇すると、男は渋々といった様子で伸ばしていた手を引っ込めた。
兎に角今はこの男が城に侵入した目的を聞きださないと。
「私か父上を暗殺に来たの?」
「…否」
「では何か密書を盗みに…?」
「…否」
「じゃあ何をしに来たのよ?」
「…主からの書状を城主に渡しに」
書状を?それが本当ならこの男は客人ということになる。しかし…
「それなら何故侵入者のような真似を…?」
「……………」
式が疑問をそのまま口にすると男は黙りこんだ。
「答えられないということは書状云々というのは嘘なのね…」
「否…」
「なら言えるでしょ?」
そう問うと男は再び口を閉ざす。
式はその様子に眉を顰め、何時襲ってきても対処できるように刀を握る手に力を込めた。
しかし、どうも男の様子が可笑しい。
頭巾と口布で隠れた顔。その中で唯一隠れていない目からチラチラと式に送られる視線には殺気とは別のものを感じる。
なんというか…視線が熱い。
正直ちょっと気色悪いわ…
「……………を見に…」
式が熱視線に引いていると、男が小声で何かを言った。
「え、あ、ああ、ごめんなさい。聞こえなかったからもう一度言って」
「……式姫の寝顔を見に…」
……………
思考停止。
たっぷり二十秒ほど固まり、男の言葉を理解すると一気に全身に鳥肌が立った。
「だ、誰かーー!!曲者が、変質者が…ッ!?」
人を呼ぶため大声を出した瞬間発せられた殺気に式は刀を抜き、飛んできた手裏剣を防ぎ、驚きに目を見開いた。
目の前の男からではなく全く別の方向から手裏剣が飛んできたからだ。
そこから現れた三人の忍を見た式は小さく舌打ちをし、いつの間にか横に移動し鎖鎌を構えた男に静かに問いかける。
「あなたのお友達?」
「…否」
「そう…あなたは戦わなくて良いわ。私一人で片づけるから」
「…何故」
「まだ信用はしてないけど客人なんでしょう?ならこの城の姫としてあなたの手を煩わすわけにはいかないもの」
微笑みながら言う式に男は目を細め、構えを解いた。
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