只今曇天につき
□その死神、医者
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仕事が一段落したネムが己のオフィスで紅茶を飲みながら休憩していると、ノックと共に扉が開き部下が現れた。
「休憩中失礼します。患者がドクターを指名しているのですが…」
「いや、うちそんな制度ないよね…?何その水商売みたいなノリ。ここ死神派遣協会の医療課だよ?」
「わかっています。しかしどうしてもドクターが良いと煩いんですよ。こちらの仕事にも支障を来すのでご面倒でしょうがお願いします」
珍しく無表情な顔を崩し眉間に皺を寄せる部下を見て、ネムは小さく溜息を吐き寄りかかっていた椅子から立ち上がった。
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「……で、やっぱりキミなわけね。グレル君…」
治療室の扉を開くと真っ先に目に入った赤色に再び溜息を吐き、ボソリと呟いた。
すると、その声に気付いた赤色が素早く振り向いた。
「ドクター!会いたかったワ!!」
「ああ、そう。…にしても今日は一段とすごいねぇ」
ネムの顔を見てパッと顔を輝かせるグレルに対し、それを見たネムは顔を引き攣らせる。
「またウィリアム君にやられたんだ…」
「そうなのよ!ちょっと報告書出すの忘れたからってアタシの顔ボッコボコにするなんて…!まあ、おかげでドクターに会えたから良いけどVv」
飛んでくるハートを鬱陶しそうに手で払いながらネムは椅子に座り、いっそモザイクをかけたほうが良いほどボコボコなグレルと向き合うとカルテを開く。
「会えたから良いってさぁ、キミがわざわざ自分を呼んだんだろう。自分も暇じゃないんだからその場にいる医者に診てもらってくれない?」
「アタシそこらへんの野郎に簡単に触らせるほど安い女じゃないわヨ!」
「触らずにどう治療しろっての?」
「ネムになら触られようが押し倒されようが構わないワ。むしろアタシが押し倒したいけどVv」
「……最近はセクハラに厳しくなってきているからねぇ…人事部に訴えれば地方に飛ばされるかもよ〜」
「ごめんなさいもう言いません!」
グレルは机の上の受話器を取り上げダイアルを回そうとしたネムから受話器を奪い取り必死に謝った。
「次セクハラ発言したらウィリアム君に言いつけるから…」
「わかったワ……愛の言葉囁いて何が悪いのヨ…」
「………なんか言った…?」
「な、何も…!」