只今曇天につき
□その死神、異形
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医療技術課研究室。
そこに集められた三人の死神。
「で、頼みってなんなのヨ?」
不満そうな顔で腕を組むグレルがそう言うと、デスクに座って足を組んだネムが植木鉢を差し出した。
「キミ達に集まってもらったのはこれを駆除して欲しいからなんだ」
「花…ですか?」
眼鏡を押し上げながら植木鉢に顔を近付けるウィルにネムはそうだと頷いた。
その横に居たロナルドも植木鉢を覗きこむ。
赤い花の中心が人の顔のようになっている。
その顔は赤い眼鏡を掛けていて歯が鮫歯だ。
「なんか変な花ッスね。なんですかこれ?人面花?気のせいか誰かに似ているような…」
「よく聞いてくれたねロナルド君。キミはマンドラゴラを知っているかい?」
「えっーと、確か魔法薬とか呪術に使う薬草で、根が人の形をしていてその悲鳴を聞くと発狂して死ぬんでしたね」
「そう。まあ、自分達死神にとってはただ悲鳴を上げる煩い薬草なんだけど…」
「アタシ前にマンドラゴラ見たことあるけど、こんな赤い花じゃなかったワヨ?」
グレルが花を指でピンッと弾くと花が『バラッ』と鳴き声を出した。
「実はね、マンドラゴラを抜く時の悲鳴がいちいち煩いから如何にか出来ないかってことで、品種改良をしたんだよ。そしたら 何 故 か こうなっちゃったんだよね〜」
それまでニコニコ笑っていたネムの瞳が眼鏡の奥でギラリと鋭く光った。
それを見たグレルがビクリと身体を震わせ後ずさる。
「そういえばあの実験の時グレル君が乱入してきたんだよね〜。自分がデスサイズでぶん殴った時に血が一滴入っちゃったみたいなんだよ」
「グレル・サトクリフ!あれほどドクターの邪魔をしないようにと……!」
「だ、だってネムが忙しいって全然会ってくれないから…」
人差し指を合わせていじけたように唇を尖らせるグレルをネムとウィルの鋭い視線が射抜く。
「あの〜、質問良いですか?」
「はい、ロナルド君」
手を上げたロナルドをネムがビシィッと指さす。
「サトクリフ先輩がやらかしたのはわかったんスけど、駆除って一体…?」
「うん。ではキミ達、これを見てくれたまえ」
デスクから降りたネムが窓に近付き、カーテンを開けた。
「これは……」
「うっわ〜」
「あら、ステキッ」
顔を顰めるウィルとロナルド、そして嬉しそうなグレルが見下ろす中庭は一面赤に染まっていた。
「何故か実験後異常な早さで個体数を増やしだしてね。その結果がこれさ」
「しかし、地面を埋め尽くしているのならもう増えないのでは?」
「それがねぇ、このマンドラゴラは建物にも寄生するんだよ。そのせいで今派遣協会は未曽有の危機と言っても良い状態なんだよね〜」
「マジすか!?こんな気色悪い花にやられるなんて最悪ですよ!」
「ちょっとロナルドッ、それどういう意味ヨ!」
鮫歯を剥いて怒るグレルを無視してネムは話を続ける。
「今は特別な薬で眠らせてるんだけど、たぶん一時間くらいで起きると思うんだ。そうなったら明日には派遣協会があの花で埋め尽くされるだろうね」
死神界史に残る最悪の事件になるだろうな〜、とネムがケタケタ笑いながら言った。
最悪です、とウィルが眉間の皺を深くする。
「てなわけで、派遣協会の命運はキミ達に懸かっているんだよ。じゃあ、今からこれの駆除方法を説明するから」
ネムが机の上に置いてあった植木鉢の花を掴み、根を引っこ抜いた。
すると、赤い髪に赤い眼鏡、鮫歯でちょっと内股のマンドラゴラが『バラ〜』と鳴きながら現れた。
「うっわ…より気色悪い……」
「根絶やしにしたいですね…」
「今までの気色悪いマンドラゴラよりよっぽど良いじゃない」
「グレル君ちょっと黙ろうか。それで、この根と花を繋ぐ茎。此処をデスサイズで切ると…」
茎が切り離された瞬間『キャーッ』と悲鳴を上げて動かなくなったマンドラゴラ。
「さあ、時間も少なくなってきたし、さっさとあれを根こそぎ狩り取ってきてよ」
とてもいい笑顔で「ね?」と微笑むネムに三人は顔を引き攣らせた。