只今曇天につき

□その死神、恋情
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ことの発端はロナルドの思い付き。

アタシに人間界で執事をやっていた頃の様子を聞いてきたロナルドにアタシの完璧な女優っぷりを語っていた。
しかし、全く信じていない様子のロナルドと軽く言い合いになり、そこまで言うのなら証拠を見せてくれと言われた。



「証拠って何すれば良いのヨ?」

「人間界に居た頃の格好して皆に気付かれなかったら信じます」

「嫌よ。なんであんなダッサイ格好しなきゃいけないわけ」

「そんなこと言ってホントは自信ないんでしょ?素直に認めりゃいいのに…」

「なんですって!…良いワ、やってやろうじゃない!!」

「じゃあ、ただやるだけじゃ詰まらないんで賭けしませんか?バレたら俺の勝ちってことで、先輩にはこの請求書の額払ってもらいます」



ロナルドが突き出した紙を受け取って読むと、この前ネムも参加した合コンが行われた店の名前が書いてある。



「サトクリフ先輩に滅茶苦茶にされたせいで俺が払うはめになったんですよ。しかも窓の鉄格子の修理費まで…」

「う…わかったワヨ。ちなみに、アタシが勝ったら何があるの?」

「これ、前にドクターが行きたいって言ってた店の限定品が頼める券です。たまたま知り合いから貰ったんですけど…これ渡せばドクターもサトクリフ先輩とデートしてくれるんじゃないッスか?」



二枚のチケットを持ってニヤリと笑うロナルドを睨んだ。
ネムとデート!
この勝負、絶対勝ってやるワ!!


早速オフィスを抜け出し、更衣室でこっそり着替えて化粧を落とし、髪の色と眼鏡を変えて出てくると、廊下で待っていたロナルドが目を丸くしてアタシを見た。



「へえ、想像以上に変わるもんッスね」

「でしょ?絶対バレないワ。覚悟しなさい!」

「いや覚悟って…おッ、調度良い。向こうからスピアーズ先輩が…」

「なッ、ウィル!?嫌よスッピン見せるなんて…!」

「バレなきゃ良いじゃないッスか」



焦っているアタシ達に気付いたのかウィルが怪訝そうに顔を顰めながら足早に近づいて来た。
それを見て急いで眉を下げ、気弱そうな表情を作る。



「ロナルド・ノックス。何を油を売っているんですか?」

「い、いや、そういうわけじゃ…」

「…此方の方は?」

「えッ!?えーっとドクターのお客さんのマルスさんです」

「は、はじめまして。マルスです」



マルスって誰ヨ、と思いながらもウィルにバレていないことに心の中でほくそ笑んだ。
じーっとアタシを見るウィルに気弱そうな微笑みを向ける。



「案内が終わったらすぐに仕事に戻ってください。残業がしたいのならば別ですが…」

「残業は勘弁ッス」

「では、失礼いたします」



カツカツと靴を鳴らして去って行くウィルの後ろ姿を見送り、完全に見えなくなったところでロナルドに勝ち誇った笑みを送る。



「どう?バレなかったでしょ」

「スピアーズ先輩なら見破ってくれると思ったのに…」



アタシの勝ちネと言い、着替えるために更衣室へと戻ろうとしたが、ロナルドに腕を掴まれ止められた。



「何ヨ?」

「まだ一人じゃないッスか」

「ウィルにバレなきゃ勝ったも同然でしょ?」

「ぐ…もう一人だけ行きましょう!その人に見破られたら先輩の勝ちを認めます」

「しょうがないワネ〜。で、誰の所に行くの?」

「ドクターッス」



話しながら腕を引っ張られ廊下を進んでいたが、ネムの名前を聞いてロナルドの手を振り払って立ち止る。



「なんでネムに見せなくちゃいけないのヨ!」

「ドクターほどの方に見破られなかったら俺も納得します」

「ネムにこんな姿見せるのは絶対に嫌!!」

「さっきも言いましたけど、バレなきゃ良いじゃないですか。それとも流石の先輩もドクターには見破られると思ってるんスか?まあ、ドクターはそこらへんの死神とは格が違いますからねー」

「ぐぅッ……」

「ドクターレベルの死神にバレなかったら一流女優だろうけど…まあ先輩はプロじゃないし、二流でも全然問題ないですもんね」

「やりゃあいいんでしょ!やってやるワヨ!!」



ニヤリと笑ったロナルドの脛を軽く蹴り、悶えるロナルドを放置して足早にネムの居る医療・技術課へと向かった。
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