昨今の積雪など
□猫と首折り、はじめまして
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ああもうしつこい!
後ろから聞こえる怒号を無視して狭い路地を走り抜ける。
こんなことになったのも全部あのアホ上司のせいだ。
今回の依頼人はヤクザ。しかも業界に深く関わっていない三流ヤクザだ。
そんな連中からの依頼を上司から言い渡された。
嫌な予感がして他の奴に回せと言い捨てたが、生憎手の空いている者がいなかったので結局私が行くはめになったんだ。
現場である雑居ビルの事務所に行って無事仕事を済ませたまでは良かった。
しかし、支払いの段階になってヤクザ共が指定の金額を払うことを渋り、難癖をつけてきた。
めんどくさがりではあるが、これでもプロの私が仕事に手を抜くことは一切ない。
なのにごちゃごちゃと文句をつけられ久々にイラッとして言い合いになり、ヤクザが掴みかかって来たのを合図に乱闘開始。
普段は逃げてばかりの私だが、実は結構強い。
その場にいた奴らを全員ボッコボコにして、金庫をこじ開け依頼料を強制回収。
さあ、帰ろうか、と扉を開くと人相が悪いオッサンがいっぱい立っていて思わず扉を閉めた。
一瞬フリーズし、次の瞬間蹴破られた扉からなだれ込んできたヤクザ共を見て慌てて窓に駆け寄りそこから飛び降りて逃亡。
これだから三流は嫌なんだ、と思いながら包囲網を敷きやがったヤクザ共をモップで殴り飛ばし、薄暗い路地を駆け巡る。
前方から飛びかかって来たヤクザの顔面に膝をめり込ませ、そのままそいつを踏み台にして飛び上がり、勢いに任せて角を曲がった。
ドンッ
衝撃と共に尻もちを着く。
しまったまだいたのか!
焦りながら身体を起こそうとすると、目の前に手を差し出された。
何故追手が手を差し出すんだ?
不思議に思い顔を上げると、おにいさんと目が合った。
肩まで伸びた黒髪、背が高く無表情で、鯉が描かれたスカジャンを着ている。
「大丈夫か?」
固まっている私を少し心配そうに覗きこむおにいさんは、今まで追いかけてきたオッサンヤクザ共とは明らかに違う空気を醸し出している。
この人もしかして…
「居たぞッ!!」
おにいさんに向かって言葉を発しようとした瞬間、後ろから聞こえてきた怒声に現在逃亡中だったことを思い出す。
尻もちを着いたまま振り返ると、ナイフを持ったオッサンヤクザが息を切らせながら少し離れた位置に立っていた。
やっば…
そう思ってぶつかった衝撃で離してしまったモップに手を伸ばそうとした。が、その前にスカジャンのおにいさんに腕を掴まれ、引き寄せられた。
「男が寄ってたかって少女を追いかけまわすのはどうかと思うぞ」
「煩ぇッ!そいつはうちの組の金を持ち逃げしたんだよ!!」
庇われるようにおにいさんの後ろに居る私の抱えた札束の入ったカバンを指差して怒鳴る。
それを聞いてチラリと私を振り返ったおにいさんに首をぶんぶんと横に振って否定する。
「依頼料分しか貰ってないよ!人聞き悪いこと言うな!!」
「なんだとこのガキが!たかだか死体処理程度の仕事したくらいでそんな大金取るなんざぁぼったくりだろうが!!」
「こっちはプロとしてやってんだよッ!」
おにいさんの後ろからシャーッとオッサンヤクザに咬みついてると、おい、と声を掛けられた。
「お前は掃除屋か?」
「そうだよ。『野良猫』の青猫」
「そうか。お前が…」
おにいさんは私の名前を聞いて少し目を見開いた。
そうこうしているうちに増えていくオッサンヤクザ。多分十人くらいいる。
どうしようかとそいつらを睨んでいると、おにいさんはゴキンッと右手を鳴らし、目を細める。
「依頼を受けてくれないか?」
「……良いけど、今それどころじゃ…」
「俺はこいつらを殺す依頼を受けていてな。後片付けを頼みたい」
「…格安でお受けしましょう」
ニヤリと笑ってそう言った私におにいさんはフッと笑い返し、ヤクザ共に向かって走り出した。