昨今の積雪など
□猫と帽子、時々鯨
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先週鯨さんと映画でも見ようかと思ってレンタルしたDVDを返却するのをすっかり忘れてしまい、慌てて家を飛び出しTSURUYAに向かっている。
食後の散歩感覚で鯨さんを誘おうかと思ったが、残念ながら本の世界に意識を飛ばしていたため、暗い夜道をDVDの入った袋を持ちながら一人でぶらぶらと歩く。
そういやあの人なんだったんだろう?
*****
一週間前、TSURUYAで洋画の棚を見ていると目に入ったガブリエル・カッソの「ウェールズ」。
「抑圧」は見たけどこれはまだ見ていなかったな。
どんな話なのかジャケットを見るために手を伸ばした。
しかし私が取る前に、横から伸びた手にDVDを先に取られてしまった。
少し驚いて隣を見ると、白い中折れ帽子を被り、サスペンダーでズボンを吊った男がDVDを持っていた。
「失礼。懐かしい物を見つけたからつい」
「いや、べつに…」
帽子が影になって目元の見えない男はポカンとしている私に気付いてDVDを差し出した。
「おにいさんが借りるんじゃないの?」
「僕は持ってるからね。いい映画だよ」
口元に笑みを浮かべる男にそうなんだと返し、じゃあと言って背を向けた。
だから、男が私の背を見てニヤリと笑っていることには気付かなかった。
*****
な〜んかあの人嫌な雰囲気醸し出してたんだよな〜
まあ、もう会うことは無いだろうけど…
帰りにコンビニで甘い物でも買って帰ろうかと考えながら夜道を進む。
ヒュ
ん?
何かが足元に飛んできた。
拾い上げてみると灰色のワークキャップだ。
誰かが落としたのかと周りを見渡すと、少し離れた場所に車が停まっており、そこから手袋をした手が覗いている。
「すいません。とばされてしまって…取ってもらってもいいですか?」
「ああ、うん」
帽子を持って車に近付く。
あれ?なんか今の声…
そう思いながら帽子を手渡した。
その瞬間、腕を掴まれ身体が車のガラスにぶつかった。
驚き目を凝らして車内を見ると薄ら白い中折れ帽子が見えた。
あのときの人!?
ベルトに付いたホルスターから棒を一つ抜いて、車の窓ガラスを突き破る。
粉々に割れたガラスに驚いたのか、腕から手を離した男の元を素早く離れ、背を向けて走り出す。
しかし、すぐに背後からエンジンを噴かす音が聞こえてくる。
やばい!追ってくる気か!!
走り出した車の音を聞き、前方にある高い塀に向かって全力で走る。
ホルスターから四本の棒を抜き、組立て一メートルほどの一本の棒にすると、体重を掛けそれをしならせ塀の上に飛び乗った。
なんなんだ一体!?
塀の前で急ブレーキを掛けた車を睨みつけ、そのまま屋根に登り、追ってこれないように狭い道を選んで家へと向かった。