昨今の積雪など

□鯨と猫、ただいまおかえり
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「鯨さーん、じゃあいってきまーす」

「ああ」






「ただいまー」

「……ああ」






「あ、鯨さんいってらっしゃーい」

「…………」





「う〜…くじらひゃん…おかえりらさい…」

「…………飲みすぎだ」







青猫が家を出るときは『いってきます』

帰ってきたら『ただいま』

俺が出ていくときは『いってらっしゃい』

帰れば『おかえり』





こんな挨拶は小学生でも知っていることだ。
なんの変哲もない日々の習慣。


しかし、この“普通”のことを今まで俺に言う奴は居なかった。


だから、青猫がわざわざ俺にそれを言いに来るのを見るとなんとも言い難いむず痒い感覚に襲われる。


俺が戸惑って何も返さずにいても青猫は気にした様子はない。





あいつが俺を家に置いたのも、俺がそれ提案に従ったのも気まぐれだ。
まあ、あいつはお人好しなだけだろうが…

飽きたら出ていく気だったが、あいつには全く飽きない。
それどころか心地良さすら感じる。



今日は朝からずっと出かけているが直に帰ってくるだろう。


ソファーに座って『罪と罰』のページを捲るが、読みなれたはずの内容が一向に頭に入ってこない。

機械的にページをパラパラと捲っていると玄関からガチャリと鍵の開く音が聞こえた。

暫くするとリビングのドアから青猫が顔を覗かせた。




「疲れた〜、鯨さんただいまー」

「………お帰り…」



視線を本から俺の前を通過しようとした青猫に移し、再び本に戻す。

暫く文字の羅列に目を通していたが、俺の前でピタリと固まった青猫は動く気配がしない。


…言わなければ良かった。



重く圧し掛かる沈黙と後悔の念に耐えきれなくなり、未だに動かない青猫に視線を向ける。


固まっていた青猫は俺の視線に気付くと動き出し、身体を俺の方に向けると、



「うん、ただいま」



ふわりと笑った。




不覚にもその笑顔に見惚れてしまった



鯨さん?どしたの?

ッ、なんでもない

ふ〜ん

…俺を見るな

なんで?

なんでもだ

もしかして部屋暑い?

いや
何故だ?

だって鯨さん耳赤いよ?

ッ!!


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