昨今の積雪など

□猫と鯨、フリフリ洋服
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「あぁ………」



これはないな…


鏡に映った私の顔はわかりやすいほど引き攣っていた。

フワフワした黒と白のゴシックロリータに身を包んで鏡の前に立っていたが、居た堪れなくなって鏡に背を向けて座り込む。

もちろんこんな恰好をしているのは私の趣味じゃない。

スズメバチちゃんから送られてきたこの服は、ずっとクローゼットの奥にしまいこんでいた。

しかし、昨日掛かってきたスズメバチちゃんからの電話のおかげで一生縁の無いはずだったこの服に袖を通すこととなったんだ。



*****



『青猫姉さま、私が送った服、着てくださった?』

「え…あ、うん。スカートとパーカーね。ありがたく着させてもらったよ」

『あら、ほかにも入れたはずよ?』

「それってもしかして…あのゴスロリのこと?」

『ええ、姉さまがあのお洋服着た姿見たいわ』

「え゛…」



今度会う時着てくださらない?と言うスズメバチちゃんに顔が引き攣る。


あんなもの着て外出るって公開処刑か!?



「いや、私には絶対似合わないだろうし…」

『そんなことないわ』

「でも…」

『なら、せめて写真を送ってくださらない?』

「写真かぁ……わかったよ」

『楽しみにしてるわ』



嬉しそうなスズメバチちゃんを裏切ることなど出来るはずもなく、タイミング良く(悪く?)今日は朝から鯨さんが居なかったので仕方なくクローゼットから服を引っ張り出して着替えた。



*****



「ないわ〜、これはないわ〜…」



床に手をついてぶつぶつ呟く。


これ写真に残すとか馬鹿じゃない?ってくらい似合わない…
鯨さん居なくてホント良かった。
この姿見られたら間違いなくフラれる。

もしこの姿の写真ばら撒くぞって脅されたら鎌足さん暗殺くらいなら二つ返事で請け負うだろうな。

でもスズメバチちゃんとの約束もあるし、あの子はそんなことはしない!…と信じて撮影するか……
ああ、気が滅入る…



「この似合わなさは犯罪レベルだ…」

「俺はそうは思わない」

「良いですそんな慰め。心に刺さるぅ、う?」



あっれ〜?
気のせいかな、今一番聞きたくない声が聞こえてきたような…


顔を上げずに座ったまま身体を180度回転させ、素早くベットの布団を掴んでそれを頭からかぶった。



「幻聴だ幻聴だ幻聴だ幻聴あうッ」

「隠れるな」



布団を剥ぎ取られ、顎を掴まれて無理矢理顔を上に向けられた。

バッチリと鯨さんと目が合った。
一気に顔が熱くなる。



「た、頼むからそんなに見ないで…死にたくなってきた……」

「ちゃんと眼帯をしている」

「そうじゃなくて…今の私見たら鯨さんの目腐るよ」

「似合っていると思うが…」



私から手を離した鯨さんから顔を隠すために俯いて、赤面しながらあうう…と声を漏らし涙目になる。


ピロリンッ♪


急に聞こえた音に驚いて顔を上げると、携帯で私の写メを撮っている鯨さんがいた。

携帯を見つめたまま硬直していると再び鳴ったシャッター音。



「…な、何してんだーー!!」

「保存している」

「すんな!今すぐ消して!消去ー!!」

「断る」



携帯を奪おうと飛びかかったが、鯨さんは立ち上り携帯を持った手を上げてしまった。
ピョンピョン跳ねて奪おうとしたがぜんっぜん届かない。
気のせいか鯨さんが私を見下ろしてニヤニヤ笑っているように見える。



「何笑ってんの…」

「笑っていない。しかし、青猫にそんな趣味があったとはな」

「ないよ!知り合いに貰ったの」

「そうか。猫耳…」

「そこは触れないで!!」



頭に付けていた猫耳のカチューシャをかなぐり捨てて服を乱暴に脱ぐ。



「誘ってるのか?」

「ちっがう!」

「どうせならシャツ一枚の方が良い。できれば俺の…」

「ストップ!さりげなく性癖暴露しないでくれませんかねえ!?」



え、何?地雷踏んだ?
鯨さん変なスイッチ入ってません?

いや、私も悪いんだ。
混乱してたからって鯨さんが部屋に居るのに服脱ぎだすなんて…


中途半端に脱いだ服を片手で押さえ、部屋から出るよう鯨さんの背中を押した。
だが、突然ジャケットを脱いだ鯨さんに服を剥ぎ取られ、驚いて固まっていると上からすっぽりとジャケットを被せられた。


何何何何!?
何で服取られたんだ?
何でジャケット着せられてるんだ?
な ん で 抱 き し め ら れ て る ん だ ! ! ?


素肌にジャケットは少しチクチクして痛い。
目の前の胸板を押したが力は弱まらず、眉間に皺を寄せて見上げると、私を見て目を細めた鯨さんに唇を塞がれた。

唇を割って入ってきた舌が絡んで徐々に息が上がる。
抵抗するのを諦めて鯨さんのシャツをギュウッと掴んだ。

唇が離れ、必死に酸素を吸い込みながら涙目で鯨さんを睨みつけると薄く笑った鯨さんに触れるだけのキスをされ、そのままベットに押し倒された。




再び封印、パンドラバッグ



う…腰痛い…

加減したつもりだ

絶対嘘だ…
ああッ、写真忘れてた!

俺が撮ったのがある

そうだった!
私の携帯に送って
そしてそのあとすぐに消去して!!

何度言ってもそれは断る

そんなあ…

泣くな
……シャツ姿を撮らせてくれるなら消しても良い

それはもっと嫌だ





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