昨今の積雪など

□猫とマネ、時々鯨
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仕事帰り、たまたま道でばったりと首折りマネに会った。
夕飯ついでに一緒に飲もうと居酒屋『天々』に入った。



「この前苺原君に会ってさ〜」

「会ったのか!俺の言った通りだったろ?」

「うん。大藪さんにそっくりなのに全然性格違ってて面白かった」

「そうなんだよ。大藪と同じ顔してるくせにおどおどしてるからなんか気色悪いんだよな」

「そう?私は結構可愛くて良いと思うけど。なんか犬っぽいし」

「お前趣味可笑しいぞ」

「ええー」



そんな他愛もないことを話していたが、酔ってきたのかマネージャーが愚痴を言い始めた。



「――でよ〜、結局大藪と連絡取れなくて俺が依頼人に散々文句言われたんだよ」

「そりゃ大変だったね〜。で、大藪さんは何処に居たの?」

「道に迷ったばあさんを案内してたんだってよ。もういい加減にしてくれ!」



ウーロンハイの入ったコップをガンッと置いてテーブルに突っ伏して泣くマネージャーの背中をポンポン叩きながらカラカラと笑う。



「また『誰かの役に立ちたい病』が発病しちゃったのか」

「そうなんだよ…どうにかなんねーかなー」

「無理でしょー」



それなくなったらもはや大藪さんじゃないと言っても過言じゃない気がするな、なんて思っていると、今まで突っ伏していたマネージャーがガバリと顔を上げて私の肩を掴んだ。



「そうだ!お前大藪に気に入られてんだからどうにか説得してくれよ!青猫の頼みなら、やめないまでも少しは控えるかもしれねーし…」

「嫌だよ!そもそもあの人が私のお願い聞いてくれるわけないでしょ!?だって私が帰りたいって言ってもド無視すんだぞ!!」



そのせいで何度鯨さんに説教されたことか…!
鯨さんのお説教はマジで怖いんだ!
ほぼ無言でジトーッて見てくるんだよ!
最早説教じゃねぇとか思うかもしれないけど目は口ほどに物を言っちゃってんだよ!
普通の言葉攻めよりきついんだよ!!
もうひたすら土下座するしかないんだよ!!


掴みあいながらぎゃあぎゃあ騒いでいたが、周りに見られていることに気付いて慌ててマネージャーの胸倉から手を離した。



「にしてもお前の彼氏って過保護っつーか嫉妬深いっつーか…」

「そうかな〜。愛されてるね、私。羨ましいか独り身めー」



はっはっはと笑うとマネージャーが嫌そうに顔を歪めた。

ちなみにマネージャーには鯨さんのことは教えてない。
この人ビビりだからね。知ったら絶対騒ぐな。

その様子を想像して吹きだしそうになったが、必死に笑いを堪える。
そんな私を見てマネージャーは枝豆を食べながら唇を尖らせた。



「なんだよ」

「べっつに〜」

「ニヤニヤすんな。あ、そういやお前の彼氏ってどんな奴なんだ?」

「えーっとね、優しいよ。あと大きい」

「…説明する気ねーだろ」

「うん」



だって殺し屋だし〜
情報漏えいはまずいでしょ。



「デカイって大藪くらいか?」

「そういや大藪さん背高かったね。でももっと高いよ」

「大藪より高い奴なんてあんま見ないけどなぁ。おッ、もしかしてあれくらいか?」



マネージャーがグッドタイミング!と言いながら私の後ろを指差した。


なんか前にも似たようなことがあったような気がする。
デジャヴか?


嫌な予感がしつつ振り向くと、居酒屋の入り口に大男が立っていた。

わ〜、大きい人だな〜
あれ絶対屈まなきゃ店内に入れないだろうな〜



「そうそうあんな感じ〜」

「おいどうした?手滅茶苦茶震えてんぞ?酒零れる零れる」

「青い髪で眼帯してる2mくらいの大男なんてたくさんいるよね〜。うん、ありふれてるよ」

「いやありふれてないだろ。俺初めて見たけど……てかお前顔色ヤバいぞ。大丈夫か?」

「居る居るああいう人。道歩いてたら五人に一人はあんな感じだよね〜」

「いねーよ!途中から自己暗示になってねーか?あ、こっち近付いて来たぞ」

「あッ、なんか今鎌足さんが死にかけてる映像受信した。ちょっと止め刺さなくちゃいけないんで…さいなら!!」

「ちょッ、何で止め刺すんだよ!?それにそっちは入口と逆だぞ!」



後ろから聞こえるマネージャーの声を無視してバックヤードの扉にダッシュ。
しかし、辿り着く前に柴犬パーカーのフードをガシッと掴まれて首が絞まった。
慣性の法則の馬鹿野郎!

涙目になりながら振り向くと鯨さんの隻眼が私を見下ろしていた。
冷や汗をダラダラ流す私を見て目を細めた。



「何故逃げるんだ」

「い、いや…条件反射…?」

「ほう……」

「すいませんマジすいませんごめんなさい!!」



目は全く笑っていないくせに口元に笑みを浮かべた鯨さんを見て速攻謝る。

フード掴まれてなかったら土下座してたよ!



「その男は誰だ?」



漸くフードを離され首をさすっていると、恐る恐るという様子で私達を見ているマネージャーを指差した。
ビクリと反応するマネージャーの所まで戻り、長い溜息を吐いてジッとマネージャーを見下ろす鯨さんと、腰が引けながらも鯨さんを見上げるマネージャーを交互に見てもう一度溜息を吐く。



「鯨さん、こちら『首折り男』のマネージャーで私の飲み友。首折りマネ、こちら自殺屋の『鯨』さんで私の恋人」

「お前が首折り男の…」

「へぇ、あんたが自殺屋の『鯨』か。………くじ…ら……?」



ピシリと石化したマネージャー。
財布から一万円札を出してテーブルに置き、鯨さんを引っ張って素早く居酒屋から出た。

店で上がった奇声は聞かなかったことにしておこう。

暫く少し前を歩く鯨さんの後ろを無言で歩いた。
なんか背中から不機嫌オーラ出てて話しかけ辛い。

どうにも居心地が悪いので思い切って歩く速度を上げ、鯨さんの横に並んで顔を見上げた。



「えーっと、なんで来たの?」



たしかに心配性だけど、仕事で遅くなることも多いしまだ十二時にもなっていない今の時間に探しに来るとは思わなかった。



「……今日は夕飯を外で食べると約束したはずだが…」

「あッ……」



私を見ずに前を向いたままの鯨さんはやはり不機嫌だ。

その顔を見上げた状態で固まり、立ち止った私に気付いて少し離れた位置で鯨さんも立ち止り、私に視線を送る。


わ、忘れてたーー!
うっわもうなんだよ自分!一度死んでしまえ!!



「死なれたら困る」

「えッ、読心術!?」

「声に出ている」

「マジで!?というかホンットにごめんなさい!!」



頭を下げる私の目の前で立ち止り、ジーッと私を見下ろす鯨さんの視線が痛い。



「確か明日は休みだったな」

「う、うん」

「一日付き合え。それで許そう」

「了解です!」



ビシッと敬礼すると鯨さんが微笑みながら手を差し出してくれたので、ニヘッと笑って手を繋いで歩きだした。

ピルルルル――



「もしもし〜」

『青猫か?』

「あ、首折りマネ。どしたの?」

『えーっと、あの鯨だっけ?あいつなんでお前の居場所わかったんだよ』

「………はい?」

『大藪に拉致られた時もお前を探しだしたんだろ。可笑しくねーか?』

「……何が?」

『この広い東京でお前を見つけ出すってそう簡単にできることじゃないだろ。お前も業界の人間なんだから普段から情報屋に居場所掴まれないようにしてんじゃねーか?』

「………うん」

『だったらなんでお前の居場所―』


ブチッ、ツーツー



電話を切って私の手を引く鯨さんを見上げると、どうしたんだと言いたげな表情で私を見てきたのでとりあえず笑い返しといた。




疑惑発生!



(ええー!そういやそうだよなんでなんでなんで!?)

どうしたんだ?
顔が引き攣っているが…

そ、そう?
気のせいだよ
(首折りマネーー!爆弾投下しやがって…!!)




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